ゲームスタート

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目が覚めて直ぐ、違和感があった。 薄暗い天井が見える。 その視界は霞むことなく鮮明で、そういえば、頭痛もなければ呼吸も楽に出来ている。 どういうこどだろう。 ここはあの世とでもいうのだろうか。 望は自分の手を天に翳した。 それが当然か異常か、とくに透けているわけもない。自分の意思で閉じたり開いたりを繰り返している。 腹の辺りに力を入れると、上体はすんなりと起き上がった。 望が今一番会いたいと願う人物は、辺りを見回すまでもなく傍に転がっていた。 「成川......!」 思わず肩を揺さぶり、左胸に耳を寄せ心音を確かめる。 確かに一定のリズムを刻むその音に、安堵のため息とともに体の力が抜けていく。 「ん、まりい......」 僅かに体を捩ったすぐ後に続いた声。 心を落ち着かせる、冷静な声。 待ち望んでいた望には、それがとても懐かしいように思えた。 「はぁ、もう。よかった......」 確かめるようにゆっくりと行なわれた瞬き。 望と同様にすんなりと起き上がる様子を見れば、成川の体にもなんら異常はないのだろう。 いや、そうではない。 むしろ異常がないことが異常だ。 「どこか痛む?」 望は心のどこかで、彼が肯定することを願っていた。 この異常な状況を否定できる材料を求めていた。 座ったまま微動だにしない成川は、視線だけをあちこちへ走らせている。 「いや、なんともない」 戸惑っているのか、落ち着いているのか。 どちらもあるが、しっくりこない。 何というか、それよりももっと、 「えっと、成川......」 灰色の背景によく映えるヘーゼルアイが揺れ動く。 理由は分からないが、成川は今、間違いなくしていた。 「どうしたの......?」 「なにがだ?」 キーンコーンカーンコーンーーー 「え......?!」 言葉を遮るように響いたのは、よく聴き慣れた 晴嵐高校のチャイムだった。 本来授業の初まりと終わりを知らせるはずのその音が、一体なんの始まり、または終わりを告げようとしているのかは分からないが、鐘の音と共に、二人の前には突如として映像が現れた。 「な、なにこれ......」 まるでそこにディスプレイがあったかのように、四角い枠に縁取られた映像だけが、なんの出力装置の力も借りずに浮かんでいる。 初めは真っ黒だった画面が、砂嵐を交えつつ段々と鮮明になり、やがてある文を作り上げていく。 《GAME START》 「が、がむ......ガム、スター?」 「......ゲームスタート。始まったって言いたいんだろう」
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