代償

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「──私、彼とはとても将来なんて考えられないし、いい加減逃げたいと思ってたの。殴られたら嫌だからなかなか切り出せなくて、あんたにも会わせたけど。察して早速乗り換え先見つけるなんて、さすが天然詐欺師ね。外面だけはいいのよ、彼。まあご愁傷様」  畳み掛けられガタガタと震え出した『元友人』の姿を、成美は冷ややかに見つめる。  少額を借りてすぐ返し、安心させる。  彼のその行動に心当たりがあるからこそ疑いも抱かないのか。  冷静に考えれば、いくらなんでもそんな男と二年も続くわけがないとすぐに見破れそうなものだが、今の彼女にはすべてにおいて余裕がないのだろう。  あるいは、成美に対する負い目で判断力が鈍っているのかもしれない。 「あいつすぐキレて暴力振るうから、問い詰める時はくれぐれも注意してね。一応への最後の思いやりよ」  もちろん事実無根だ。彼はむしろ穏やかな性格なのだから。  冷たく言い放ち席を立つ成美に、彼女は茫然自失の体で固まったままだった。  一度も振り向くことなく、真っ直ぐ前だけ見据えて出口へ向かう。  傘立ての中の見慣れた花模様の柄を掴み、ドアを押し開けると同時に一気に開いて成美は雨の街へ踏み出した。
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