代償

3/8

83人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「成美、ごめんね。でもあたしとあの人はもう……」  涙声でテーブルに額がつくくらいに深く頭を下げる彼女。ついこの間までは大切な親友だった、泥棒猫。  いつものカフェの奥まった席までは、外の激しい雨の音は聞こえて来ない。無意識に落とした視線の先には、濡れて爪先の色が変わった靴。  ──大好きなお気に入りだった。彼と一緒に買い物に行って、二人で選んだ華奢なハイヒール。雨の日には絶対に履かなかったのに、何故今日に限ってこれを……?  現実逃避しそうになった思考を、成美は強引に引き戻す。  彼の様子がおかしいのには気づいていた。友人に改まって呼び出されて、知らされたその理由に愕然とする。  衝撃が薄れるにつれ、静かに怒りが沸いて来た。哀しみではなく。 「どうでもいいわ。あんたなんか信用した私がバカだったのよ。大事な友達だと思ってたのに、本当に呆れた」 「なる──」  ──謝られてどうしろって言うのよ。私が身を引いて、二人の行く末を祝福してくれるとでも?
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加