完璧な兄

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 だがやはり兄は天才だった。  兄は明らかに拒否反応を示している女とあれよあれよという間に同棲へと至り、そして紆余曲折を経て婚姻を結んだ。誰から見ても幸せそうで仲睦まじい夫婦となった。  その経過の中で一番驚いたのは、俺自身の心境の変化だ。あれだけ毛嫌いしていた女のことを、俺はすんなりと「義姉(ねえ)さん」と呼ぶようになっていた。  最初こそ5つも年下の地味な女のことを“姉”などと言えないと思ったが、兄の話を聞いていると女がしっかり者で気が利いて、細かい気遣いの出来る優しく真面目な性格だと知れた。そんな義姉(あね)の気質は兄と合っている。  それに、義姉と出会ってからの兄の変わり様が俺には好ましかった。食に興味がない為に異様に痩せていた兄が義姉の手料理で健康的な体重となり、小説という方法以外でも己を主張するようになった。性格も明るく積極的になり、頼もしくなったようにも見受けられる。これらは全て義姉のおかげであり、俺は義姉を認めざるを得なかった。  結局兄は孤高でなくとも完璧で、“女を見る目がない”のは俺の方だと見せつけられた様だ。  この先もきっと俺は兄には勝ることはないだろうし、心のしこりは消えることはない。だけどもう、それでいい気がした。  兄は兄、俺は俺。それぞれ違う人間なのだから比べてもどうしようもないことだ。兄という存在が身近すぎてそんな簡単なことも分からないでいたが、兄の極自然に幸福を享受する姿を見て俺はやっとそのことに気がつけた。
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