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幼い頃から文武両道で眉目秀麗なふたつ年上の兄に憧れていた。
兄が同じ年頃の子どもと比べて頭ひとつ抜けていることは未就学児の俺でもよく分かっていたことだ。
「ぼくもお兄ちゃんみたい何でも出来るすごい人になりたい!」
そんな幼気なことを言う俺を、兄はそれはそれは不思議そうに見つめて言い放った。
「ショウ、俺は凄くなんかない。誰だってこんなことは出来るよ」
当時の兄を過剰に尊敬している子どもの俺は、兄のその言葉を信じた。
年を重ねれば兄の様になれる、そう馬鹿正直に信じて疑わなかった。
だが、俺は気がついていなかった。俺でも分かるソレを兄自身が全く理解していなかったことに。
兄は自分なんかが出来ることなんて皆等しく出来ると思っており、自分のことを天才などと少しも自覚していない。
そのことに俺がやっと気がついたのは、兄の通う私立小学校の受験に落ちた時だった。
気を落として悲しみに暮れる俺を、兄は奇妙な生き物を見るかの様な目つきで見て、そして言ったのだ。
「何で落ちたんだ?」
グサリと胸に突き刺さったその言葉は、それから先ずっと抜け落ちることなく心のしこりとして残ることとなる。
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