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俺達の両親は“運動や勉強が出来なくてもいい! 大切なのは個性!”という思想の持ち主だ。どうやら自分達が親に厳しく育てられたそうで、その反動なのだと思う。
兄は、両親の思想とはまるで逆な男だ。勉強や運動は抜群に出来るが、大人しく穏やかで聞き分けがよく、自己主張せずにただ綺麗に微笑むだけ。
両親はそんな兄が無個性に見えた。だから褒めなかった。だから兄は勘違いしたのだ。自分は天才などではない劣った人間なのだと。
兄は己を過小評価する人間となり、周りはそれを慎ましいと美点の様に語る。俺はそれがとても気に食わなかった。
一般的には“優秀”だと評価される俺だが、兄には絶対に勝てない。だが兄は己を“平凡”だと言う。俺は兄の弟でいることが情けなくて、悔しくて、惨めで仕方なかった。そんな俺の気持ちを兄が察することは生涯ないのだろうと思う。兄はそういう鈍い男だ。
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