完璧な兄

6/12
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 ハワイでホテルを経営する、両親がそう言い出したのは俺が就職活動を始めようとしていた頃だ。  何に感化されたのだろうかと訝しく思ったが、どうやら結婚する前からのふたりの夢だったらしい。ついては家族でハワイへ移住するということなのだが、俺にとってそれは願ってもないことだった。  昔から海外への関心が強く、出来ることなら国外で働きたいと思っていた。その為に高校や大学では本格的に英語や中国語を学んでいたので、俺は賛同した。それに何やかんや頭のいい両親なので未知なるホテル経営でも失敗するビジョンはあまり浮かばなかったからだ。  だけど……。 「ハワイでも小説は書けるだろうが、俺は日本に残るよ。家を売るつもりなら俺に売ってくれ」  兄がそう言ったのは意外だった。唯々諾々として両親に従うだろうと思っていたがそうではなかった。  兄は日本に残り小説を書き、俺はハワイに移住して両親と一緒にホテル経営をするということに結局落ち着いた。そんな中でも俺達はほぼ毎日連絡を取り合った。兄の生存確認という意味合いのそれだったが、つい長話をしてしまうの常だ。  家族で暮らしている時はほとんど言葉を発することがなかった兄が、家族から解放された途端に喋るようになった。それは俺をなんとも複雑な気持ちにさせたが、気にしないことにした。  
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!