完璧な兄

7/12
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 2年に1度の間隔で兄と音信不通になってしまうことがある。そうなると俺は直ぐにハワイから日本へと飛ぶ。  生まれ育った家へと入ると、締め切りという修羅場を乗り越えた兄が空腹と睡眠不足で倒れている。自己管理や家事が出来ない兄を介抱しながら毎度“早く嫁をもらえばいいのに”と思うのだが、それも難しいなと思い直す。  兄は変わった感性の持ち主であるが、才能に溢れた美人で経歴も資産も申し分ない。そんな兄に釣り合う女性というのは探してもなかなかいないだろう。  それに兄の口から女性の話を聞いたことがなく、俺自身も兄が女性と睦まじくしている所がどうしても想像出来なかった。  兄は清廉潔白な孤高の天才。故に完璧なのだ。  例によって自宅で倒れていた兄を近所の医院へと連れて行ったある日、点滴を打ち終えて元気になった兄は会計時に受付までやって来ると……。 「俺と結婚して下さい」  そう言って俺の目の前でプロポーズをした。  まるで花が咲いた様な可憐で麗しい笑みを浮かべた兄は、甘く優しい声を出す。こんな兄を見たのは初めてで、言葉を失って固まっていると……。 「え? 嫌だけど」  求婚された事務員の女は淡々と言い放った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!