完璧な兄

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「あんな女のどこがいいんだ?!」  俺がそう言って不満を爆発させたのは、遂に兄が医院へ出禁となった日のことだ。  あの女は終始兄に対して嫌悪感を抱いていた様子で、それがたまらなく悔しかった。  兄にはもっと相応しい相手がいる。容姿端麗で博識で、堅い仕事についている、そういう女性が釣り合うだろう。  なのに、兄は俺をとても冷ややかな目で見つめて静かに怒っていた。 「あまり無礼な物言いをしないでくれ。俺だって怒りでどうでもよくなることはあるんだ、例えそれが実の弟相手でもな」  兄が俺に対して怒りの感情を向けてくるのはこれが初めてで、それがまた俺には楽しいことではなかった。  喜怒哀楽すらの自己主張もしなかった兄が、あの女と出会い様々な感情をさらけ出している。“仲のよい兄弟”であるはずの俺が長年出来なかったことを、少し前に現れた女は簡単にやってのけてしまった。面白いはずないじゃないか。  兄は美しくて天才だが、やはり神は与え過ぎるということはしない様だ。  “女を見る目がない”、それが兄の唯一の欠点なのだろう。俺はその兄の欠点を苛立たしく思う反面、どこかホッと安堵していた。そしてあろうことか、“これでなら俺でも兄に勝てるかもしれない”と愚かなことを考えていた。
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