窓辺の歌うたい

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2人で食べる朝食、でもなんだか僕は食が進まない。 僕がこの家に来たばかりの頃、君は僕に口移しでご飯を食べさせてくれたよね。 君に出会う前の僕はまるで、道端で犬に踏みつけられ誰の目にも止まらない雑草のようだった。 同期は次々と僕を置いて自らの居場所を見つけ、やがて1世代若い後輩が入ってくる。 僕は必死に歌うのだけど、誰の耳にもそれは届かない。 当然だよね、人間は新しいものが大好きだ。 もはや誰も僕に目もくれない。 スタッフの慰めの言葉すら、僕には(あざけ)りに聞こえた。 このまま誰も僕の歌に応えてくれなかったら? 後輩達がいなくなって、そしてまた次の後輩にも追い抜かれて。 次の、次の、次の、次の···、置いていかれた独りぼっちの僕は最後にどうなってしまうのだろう。 僕はもはや歌う気力も失いかけていた。 その時だったね、君が現れたのは。 君がその鳶色(とびいろ)の瞳で僕を見つめた時、僕の口から久しぶりに歌が(あふ)れ出ていた。 今までの歌声とは全く違う、自分の声とは思えないほどのびやかで声量のある美しい歌声。 君はその可愛い唇の端をきゅっとあげて、僕に控えめな拍手を送ってくれた。 僕は嬉しかった。 僕の歌は君と出会って花開くためにあったんだね。 そうして僕と君は一緒に暮らすようになった。 君は甲斐甲斐しく僕の世話を焼き、僕が遠慮するのもかまわず食事の1口目は必ず口移しで食べさせてくれたね。 最初こそ戸惑ったけど、じきにそれがないと落ち着かなくなってしまった。 目の前の皿と同じ食べ物が入っているのに、どうして君が食べさせてくれるとこんなに美味しくなるんだろう。 でも最近の君はまるで知らんぷり、僕の前に皿を置いて、それで終わり。 自分で食べるのが当たり前だったんだから、君の迷惑になるほど君を求めてはいけない。 少し前までの僕ならそのくらいは(わきま)えて振舞っていただろう。 でも、最近のどうにもおかしな僕は目の前の皿に手をつける気すらしない。 ねぇ最初の1口だけ食べさせて、そうおねだりしようと隣を見ると、なんと君はスマホをいじりながら明後日(あさって)の方を向いてのん気にパンを頬張っているではないか! 僕の気も知らないで! 僕といる時は僕だけ見ててっていつも言ってるだろ! 一緒の空間にいれば満足なんて僕は思わない! さっさとそのつまらない四角い箱をしまえ! 僕の中に自分でも感じたことのないほどの激しい嫉妬と怒りが湧き上がる。 思わず君の手を掴みスマホを激しくつつくと、君は渋々スマホをしまい僕に向き直ってご飯を食べさせてくれた。 ···もしかして君は僕に飽きてしまったのかい? 僕の気持ちの高まりとは裏腹に、最近なんだか君がよそよそしい気がする。 それとも僕が欲張りになってしまったのだろうか。 昔は君によりかかって、君の体温を感じながら微睡(まどろ)むだけであんなに幸福だったのに。 冷めてしまった君と裏腹に、今の僕は渦巻く熱と欲望に支配されてそんな穏やかな時間を楽しむことも出来ない。
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