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久しぶりに再開
学生最後
年が明け、実業団チームの入寮が近づいていた。
卒論を提出し終わって発表も済んでいた虹遥、遥那ちゃん、菜津莉ちゃん、優湖ちゃん。大学に行くのは卒業式のみとなっていた。その前にみんなでどこか行きたいねと話し合っていた。
どこに行くかとなって全員揃って韓国と一瞬で行先が決まる。アジア大会で韓国に訪れてはいるがこの時は食べ歩きしか出来ておらず、観光は全くといっていいほど出来ていなかった。
スマホで行きたいところをピックアップをする。なるべく安くお手軽に旅行したいと調べていた。
日本と韓国なら日帰りでも行ける距離、4人でまとまった時間でどこか行くとなるときっと最後だと思うと1週間くらい滞在したいなと考えていた。
ある旅行会社の格安ツアーに目が止まる。
東京から韓国の飛行機往復チケット、電車やバスの周遊チケット、ホテル込みで1人当たり2万円弱のコースを優湖ちゃんが見つける。
まずそれを申し込もう。観光地や食事は後で決めようと急いで登録をする。
空港まで近くの駅まで行けば空港行きのバスが定期的に出ている。出発を成人式の翌日にすることにした。
韓国のことを知らないだけで検索すると沢山出てくる。
水族館と動物園の両方ある施設、デジタル展望台、韓国の人なら誰しも知っている有名なテーマパークと調べれば調べるほど色んなところに行きたくなる。
しばらくすると菜津莉ちゃんが肩をたたく。
ちょっとコレ見て?韓国ってエステが有名みたいだからみんなで行こうよ。
声だけでなく、目で訴えてきて断るという選択肢を与えられていないような気がして仕方なかった。
誰もエステなんてやった事ないしこういう機会じゃないと今後もやることはないだろうなと思って行くことを決める。
1週間と長い期間韓国にいるから全部決めてというより現地でオススメスポットを聞いて行ったり、行ってみて良かった所を再び訪れるのもいいなと考えていた。
気がつけば日付が変わっていたため、寝てまた考えようと布団にくるまった。
カーテン越しに朝陽の光に目が覚めた。1週間、韓国に行くならば着る服やパジャマをもう少し買って置いた方がいいかも。
早く起きたし、食事当番ではなかったが冷蔵庫の残り物で何か作ろうとキッチンに立った。
残りは玉子、牛乳、サラダ、椎茸の肉炒めが残っていた。玉子をスクランブルエッグ、牛乳をアレンジしてラッシーにしよう。
サラダはそのまま出せばいいし、椎茸の肉炒めは温め直せばいいか。
事実上、作るのはスクランブルエッグとラッシーのみ。美味しいか分からないけど味見をする。よし人間が食べられる味付けだなと確認をして遥那ちゃん、菜津莉ちゃん、優湖ちゃんを起こす。
目を擦って寝ぼけた声でおはよう。眠い中起こしちゃったかなと思いつつも時刻は午前9時、睡眠時間は充分取れている。むしろ起こさなければ何時間でも寝ている勢いだった。
朝ごはんを食べてアパレルショップに行って洋服を眺めている。どんな服を着て行こうか悩む。
店員さんに韓国に行くことを伝えるとダッフルコートを勧められた。
理由としてはこの時期の韓国は北海道より寒いから暖かい格好でいかないと風邪を引く。
そう聞いて虹遥は厚手のワンピースとスボン、ダッフルコートを手に取って会計をする。
今、家にある服とこの日買った服があれば大丈夫かな。滞在している間、全く洗濯をしない訳じゃないし新しいコーディネートを試すチャンスでもある。それで気に入らなければ韓国でまた買えばいいかなと思っていた。
これで後は当日、空港に行って韓国に飛び立つだけ。そう思いつつキャリーバッグとしてカバンに必要なものを詰めている。必要最低限のお金を外貨両替しておこう、夕方に再び家を出て近くの銀行で手続きをする。当日までではなく、前日までに全てやっておきたかった。そうすればまだ猶予があるから何とか出来るだろうという虹遥の考えだった。
搭乗手続きの時間を確認してその前に行こうと前夜はアラームをかけて早めに寝る。
夜が明けてアラームが鳴って虹遥は目覚めて腕を伸ばすがまだ誰も起きていない。体を揺らしても全然目を覚まさない。
その時間を使ってメイクをしているがまだ起きてくる気配もない一方で時間は刻一刻と近づいている。ちょっと強めにビンタするとやっと起きてくれた。早くしないと韓国に行けなくなるよ、早く着替えてと催促をする。
遥那ちゃん、菜津莉ちゃん、優湖ちゃんは軽くメイクをした後に食パンを焼き始める。
本来ならちゃんとイスに座って食べなきゃ行けないがそんな時間はない。食パンを加えたまま家を出る。
マンガやドラマで出てくるようなシーンを自分たちがまさかすることになるとは思わなかった。搭乗手続き開始時間ギリギリに空港に着く。
手続きを終えてゆっくりイスに座りたいと思っていたが飛行機に乗るまで寝かせたらダメだ。今寝たら韓国に行けない。
無事に韓国に行くまではと強い気持ちでいた。旅行で行くのにどうして緊張しなきゃいけないのか、友達だから言わないが、起きてからまた寝ようとするのは止めてほしいと思っていた。
やっと飛行機に乗り込んで虹遥は疲れてそのまま眠ってしまう。ちょんちょんと優湖ちゃんが指で突いて起こしてくれた。
なんかラインの通知が届いているなと確認すると虹遥の寝顔姿が送られている。
何これって優湖ちゃんに見せるとあまりにも気持ちよさそうに寝てたから撮っちゃったと笑顔で答える。
かわいい笑顔が眩しすぎてもう怒る気にもなれなくなり、今度仕返ししようと考える。
何はともあれ目的地、韓国に降り立つことが出来た。韓国語が分かるのは遥那ちゃんしかいない。
行先、観光地、チェックインと全てお願いしよう。
キャリーバッグをコロコロ転がして出かけるのは大変。午後3時を過ぎていて先にホテルに向かうことにした。
流暢な韓国語でチェックインの手続きと荷物をフロントに預けてホテルを後にする。
今から観光地に行っても長い間滞在することは出来ない。
また食べ歩きをするでもいいが短い時間でも楽しめる場所があればと近くを歩いていると電波塔みたいなものが見える。
入場料もさほど高くなくて入るとエレベーターで上っていく様子に高揚していた。数秒で展望台に着くとガラス張りで下の様子を見ることが出来て怖いのと高いのを感じていた。
虹遥はよく考えれば日本の電波塔はどこも行ったことがないことに気がつく。
外の景色を眺めていると陽が沈み始め、菜津莉ちゃんが上から夜景をみたいと提案をしてしばらくお土産を探しつつ暗くなるのを待っていた。
1時間後、展望台から外を見ると電気が灯って近くの山に向かうゴンドラも輝いていた。
その山の頂上にはたまたまイベントをやっていたのか星の形になっていてかわいいと口を揃えて言っていた。
夜ご飯はどうするかと話あっていた。あホテルでバイキングで食べることも出来るが韓国といえばというものを食べたかった。
ホテルに向かって歩いている途中、焼肉屋を見つけた。日本の焼肉屋と韓国の焼肉屋、どう違うのか気になっていた。
日本でもお馴染みのサラダやホルモン、カルビ、ネギ塩タン、ロース、石焼ビビンパをまずは注文をする。
ひと通り食べたあとにキムチや盛り合わせの他にサムギョプサルやサムゲタン風の雑炊等を食べた。お腹いっぱいになってホテルに帰ってパジャマに着替えるとそのまま眠ってしまう。
翌日、虹遥は新調した厚手のワンピースを着て外に出る。この日は韓国のテーマパークに行って終日遊んでいた。
そこでは民族衣装をレンタルしてテーマパークを歩けるとのことでみんなで着替えて歩いている。かわいいとスマホのインカメラで撮りまくる。
普通の服よりも重くてこれを着て歩いていたのだと思うとスゴイと感心するのと同時にかわいいとも感じていた。
ご飯も美味しいし、民族衣装を着たままアトラクションに乗ることが出来る施設があることに驚き。
ひと通り楽しんだ後に民族衣装の資料館とミュージアムが併設されている場所に向かう。歴史を学びつつ歩いている。
時間になって民族衣装を返却をして帰ろうとしていた。黄昏時になって駅に向かう途中に橋を渡っていると虹が架かっていた。
虹遥は感動して橋の袂に戻って全体をスマホで撮影する。ホテルに戻ってバイキングを食べてベッドで爆睡をする。
その後エステ巡りをしてみたり、世界遺産を巡りやスイーツ巡り、コスメの工場見学やお菓子の工場見学をしてお土産をもらう。
そしてもういちどテーマパークや電波塔に行く。数日前にも行ったのにも関わらず初めてのような感動をする。韓国だけでなく、他の国にも行ってみたいと感じつつ最終日の夜を迎える。
あっという間だねとホテルにあるお土産コーナーで何を買うか悩んでいる。自分用、家族用、新たな所属先と買っていこう。
空港で買おうとしたら迷って乗り損ねることもあるから今のうちに買わないと虹遥は考える。
大きな袋いっぱいに買って部屋に戻る。
思い出話をしながらお昼には日本に到着予定することもあってアラームをかけて眠る。
帰りも虹遥が最初に起きて遥那ちゃん、菜津莉ちゃん、優湖ちゃんを起こす。
朝食をホテルで食べたいが時間が早すぎてやっておらずまず空港に向かう。やっていたのがファストフードのみで普段食べることはないがずっとお腹が鳴っており、それどころではなかった。
ハンバーガーセットを買って搭乗手続きをする。時間までの少しの時間で朝食を済ませて飛行機に乗って日本に帰る。
こうやってまとまった休みが取れて遊べるのはいつになるのかなと思いつつ契約が残り少なくなった思い出の家に戻る。
新たな場所
卒業旅行に行ってからすぐに荷物をまとめてそれぞれの実業団チームの寮に荷物を送った。
虹遥は大学からも家からも近くて慣れ親しんだ土地で走れること、まだまだ知名度の低い東京多摩食品を誰もが知る陸上チームにしようと誓う。
入寮するとテレビ、冷蔵庫、洗濯機が完備されていて生活する上では何不自由ないくらい充実していた。
その上専属トレーナーまで付いているってスゴい。これが普通だと思ってはいけない、自分は恵まれているんだと言い聞かせた。
初日は自己紹介をしてどんなメニューをしているのか流れを説明されてから練習に入る。
体力トレーニングや走り込みをするのは当然だが1時間に1回は休憩を取って水分補給と塩分補給をする。
時間内はずっと練習だと思っていた虹遥に取っては驚きを感じたがそれだけ選手のことを考えているんだなと実感することが出来た。
寮に帰ると専属コックさんの美味しいご飯が食べられると練習後も楽しみで仕方ない。
練習では他の選手とコミュニケーションを図るために喋るけど練習後はどうなのかと緊張していた。
1人の女子選手が声をかけてくれた。
虹遥ちゃんってあの栗花落虹遥ちゃんだよね、知ってるよ。歳下なのにランナーとして尊敬しているし受け答えもしっかりしてるから人間としても陸上選手としても憧れているよ。
お姉さんにそんな言葉をかけてもらえて嬉しいし、もっと自分も頑張らないといけないと思う。
周りの選手を見ると練習をしている時は真剣な目をして終わると虹遥を妹のようにかわいがってくれる。何かあれば相談してねと頼りになることが多くて甘えてばかりいる。
卒業式
3月に入って大学の卒業式に出席をするために練習に行かず、着物のレンタルに行って袴を着付けしてもらう。
自分が選んだ袴、この時くらいは自分をかわいくしてもいいかなと東京多摩大学に向かう。卒業生が多くて指定席で既に決められていた。
終わったらグループラインで集まればいいかな、せっかくなら遥那ちゃん、菜津莉ちゃん、優湖ちゃんと会って話がしたいしどんな練習をしているのかも気になっていた。
式が終わって桜の木の下で集まっていた。
それぞれの袴、かわいいねと言い合いつつ自撮り棒にスマホを乗せて何枚も写真を撮っていてそのまま近くにあるカフェに向かう。
虹遥は同じ東京で何時間でもいられるがそういう訳にもいかない。
遥那ちゃん、菜津莉ちゃん、優湖ちゃんは北は北海道、南は沖縄からこの日のために東京に来ている。翌日に練習がなかったとしても休養して練習に戻らなくてはいけない。
虹遥は練習に戻るのはいつかと聞かなくてはいけない。
2日間休みをもらっているから何時まででもいいよ。最悪明日の最初の便で帰れば大丈夫だよと笑顔で答えている。
お互いに練習時間でどんなトレーニングをしていて施設、選手間で打ち解けてきたかなど話が尽きることはない。
昼に卒業式が終わって夕方迄ずっと喋っていると袴を返す時間になってカフェを後にする。
私服に着替えて軽くご飯を食べて空港に見送りに行く。
次会うのは陸上競技場なのか、エスカレーターを降りていく姿涙が出てきそうになる。
栗花落虹遥は誰にも負けないよと自分に言い聞かせて東京多摩食品の寮に戻っていく。
まさかの出来事
虹遥が東京多摩食品に入社して半年、予想もしていなかったことが起きた。
それは専属トレーナーの引き抜きで別のチームに移籍してしまう。この事実を知らされた虹遥は不安に陥っていた。
身体のメンテナンスだけでなく常に寄り添ってくれて友達のように何でも話せる存在の人がいなくなることに動揺している。
陸上選手として出来ることは結果を出して元気に走っている姿を見せること。それしかないと気持ちを切り替えた。
次に虹遥の専属トレーナーになったのは年配の女性で寡黙の人だった。また初めから関係を築かなきゃいけないのかと精神的に不安を抱えていた。
他のチームだったら個人ではなく、チームにトレーナーがいるもの、自分は恵まれているんだと思うことにする。
前のトレーナーとは意見がぶつかることはなかったが同性と言うこともあって新しいトレーナーとはよくケンカをしていた。
もう少し入念にまっさーをして欲しいとお願いをしてもこれだけすれば充分、文句あるなら自分でお金出してメンテナンスをすればと捨て台詞いう終い。監督に相談をしようかと考えていた。
そんな不安を抱えながらシーズンオフ前最後の大会が近づいていた。体調が良くなく、走りが芳しくなくこの大会は見送ろうかなと考えていた。
そのことを監督に告げると来シーズンに向けて調整していこうと提案をしてくれた。
だが、シーズン最終戦に虹遥はエントリーをされていることに驚いた。
この日は走る予定はなく、一気に気持ちを高めなきゃいけないことに大変さを感じていた。体調は優れない、走りは芳しくなくという中で走った結果は予選敗退。
悔しいというよりもやっぱりそうだよね。監督には来シーズンに向けて調整していこうといってくれたのに何で走ることになったのか分からなかった。
理由としては監督もエントリーを取消をしようとしていた時、女性トレーナーが出れますと推薦して出ることになったと後から聞かされた。虹遥のこと何も分かっていない。
芳しくなく走りを見れば明らかに出ない方がいいのに、それに話を全然聞こうとしてくれない。これでケガをしたら責任を取れるのかと疑問に思っていた。
案の定、ムリに大会に出てケガをして春まで走れなくなってしまう。
監督はトレーナーを代えるか他のチームに移籍するかという選択肢を与えてくれてこのチームが大好き、仲間が大好きなのでトレーナーを代えるように要請をする。これでダメならもう言い訳なんて出来ないと感じた。
久しぶりの再会
4月になり、新選手とスタッフさんが紹介される。
そこには佐倉直人という名前が読み上げられるとどこかで聞き覚えのある名前だなと虹遥は思う。
そして虹遥の新しい専属トレーナーには佐倉直人が付くようになった。
佐倉直人……って高校時代に付き合っていたあの直人?だとしても涼菜さんっていう彼女さんがいるのにと公私混同していた。
どういう形であれまた直人に会えることに喜びを感じていた。
同姓同名の初めましての人かも知れない、虹遥の知っている直人だったとしても数年経っていて顔つきが変わっていることも考える。
練習後にマッサージを受けているとぎこちない喋り方を見ると変わっていないことに安心をした。
大学時代、一緒に観に来てくれた涼菜さんとは転勤で離れてからそのまま自然消滅してしまった。
直人は仕事を辞めてトレーナーになるために専門学校に行くことになって卒業したタイミングで東京多摩食品に求人があって応募をしたと聞いた。
その上、虹遥の戦況は常に追いかけてくれていたみたい。
その話を聞いて体調管理は任せよう。
直人ならはじめましてじゃないし、少なからず虹遥のことを知っている。このチームには骨を埋めるつもりでいた。
成果
専属トレーナーが直人に代わってからというものの虹遥の走りは見違えるほど変わっていた。
それは周りから見ただけでも違う。どれだけ走っても疲れを感じずにいてずっと走れといわれれば走れる気がしていた。
チーム内での記録では常に上位、直人からは調子がいいからってオーバーワークしないようにと口酸っぱく言われていた。
練習の合間だけでなく、食事の時間などでは隣に座って走りやプライベートで何か不安なことはないかと気にかけてくれている。
選手とトレーナーの垣根を越えた関係になりつつあった。
虹遥は直人のことを気になっていたとしても直人は別の女の子が好きかもしれない。向こうから好きと言ってくれるまでは今の関係でいようと自分の心に閉まった。
練習時、虹遥が転倒するとすぐに駆け寄って医務室に運んで処置してくれる。
走りがいつもと違う時は監督に話をして許可を得た上で呼び止める。
そして今、何を考えていたのか。
どこか痛めてる所はないのかと聞いてくれる。
有難いがケガをしている訳でもないのに足を止めるのは好きではない。練習に戻ろうとするが直人は今日は上がりな、これ以上やったらケガをする。
なぜそんなことが分かるのか、みんなが走っている中で自分だけ先に上がってマッサージをしてもらうことにスゴくもどかしい気持ちでいる。
監督に話をしてマッサージを受けに行くことを伝えるとスポーツ選手はケガをしてからでは遅い、その前に気づけるかどうかも大事だよ。
虹遥と直人はマッサージルームに向かう。
うつ伏せになった虹遥にマッサージをする。
ふくらはぎが張っているの分かるか?この状態で同じ強度でやっていたらケガをする。
栗花落さんの走りを見てヤバいと思ったから監督にお願いをして上げさせてもらったよ。
「今さら栗花落さんってよそよそしい呼び方止めてよね、前のように虹遥って呼んで。それより直人、今付き合っている人いるの?」
顔を赤面していた。虹遥は永遠の憧れだし小学生の時から好きだった。
だから高校時代に付き合うってなった時は何かの間違いかとすら思ったくらい。
あの時は陸上に直向きな虹遥が眩しくてとてもじゃないけどデートに行こうなんて気軽に誘えなかった。そうしている間に卒業してしまったと説明をする。
一生懸命気持ちを伝えてくれる姿は昔と何ひとつ変わっていなかった。その姿を見て安心して揶揄ってみる。
もし、虹遥が直人のことが好きって言ったら迷惑?うつ伏せの状態で上目遣いをしてみると今は選手とトレーナーの関係でしょ。
それ以上でもそれ以下でもない、勘違いするようなこと言ったらこっちも困るんだけど。
虹遥の気持ちは全然伝わっていなかった。
事実なのか、間違いなのか
直人のおかげで陸上選手として日々成長し続けているなと虹遥は感じていた。そんな時にスマホでニュースを見ているとおめでたいニュースが流れてきた。
「沖縄生命 南條優湖選手、真剣交際」
よく芸能人やスポーツ選手の交際を見ていていちいちネットニュースやテレビで流す必要が果たしてあるのかと疑問に感じていた虹遥。だが、今回ばかりは他人事ではいられなかった。
事実ならおめでとうと祝福するし、間違いなら勘違いで載せるなよと思うくらいでいた。
朝、目覚めたらグループラインと個人ラインのそれぞれにニュースの記事が添付されて届く。
急に騒がしてゴメンね。
でも優湖は真剣交際しているから逃げも隠れもしない。恋愛ばかりして成績を落としたと言われないように練習を積むから。また大会で会おうね。
アラサーに近づいていることもあるし、高校や大学の友達も結婚したという話を連絡を聞くと優湖ちゃんが付き合ったって話を聞いてもなんら不思議ではない。
直人はいつ告白をしてくれるのか、恋愛の関係は白紙に戻ったから振り出し。それもこっちから言わなきゃいけないの。不器用だからそれとなく誘導しようと考えた。
今度は
陸上選手栗花落虹遥、トレーナー佐倉直人この関係に居心地が悪いことはない。だが次のステップに進みたいと休養日に虹遥は直人を誘う。
お互いに同じ寮に住んでいることもあって周りの目が気にする直人といくらでも見てくださいという真逆の考えをしている虹遥でいた。
休みの日はジャージで過ごしていることが多い虹遥だがこの日はレモン色のワンピースに紫外線を気にして帽子とサングラスをかけて出かける。
電車で海のテーマパークに行って終日、遊んでいた。すると直人からベンチに座る。
「栗花落虹遥さん、結婚を前提にお付き合いをしてください。陸上選手としてだけでなくて私生活でもサポートしていきたい」
付き合って欲しい、告白をして欲しいと思っていたけどまさか結婚前提?一瞬動揺したもののその言葉に嬉しかった。これ以上にいい人に出会えるとは到底考えられずお願いしますと返事をする。
お金が欲しいわけではない、イケメンと一緒にいて周りに見せびらかしたいわけでもない。
虹遥のこと、栗花落虹遥を1人の女の子として扱ってくれて大切にしてくれる人じゃないと不安になるし心配が尽きない。
優湖ちゃんのように恋愛と陸上を両立させよう。トレーナー佐倉直人に出来ることは陸上選手栗花落虹遥として記録会や大会で記録を残すこと。それしかない。
思った通り
誰がどうやって情報を仕入れたか分からないが寮に帰ると虹遥ちゃんと直人さんって付き合っているの?
何でそれを?東京多摩食品のメンバーが知っているのか不思議に思ってスマホで自分の名前を入れて検索をする。
「東京多摩食品 栗花落虹遥選手とトレーナー佐倉直人さん 真剣交際」
事実なのか問われて結婚を前提にお付き合いをしていますと力強く答えた。
優湖ちゃんの時のようにみんなに心配をかけまいと先にグループラインでニュースの記事を添付して結婚を前提にお付き合いをしていますと先に伝えた。
週刊誌だけでなく新聞社、各局のテレビ局に自分から電話して事実だと伝えて行こうかなと思っていたことをグループラインに併せて送る。
みんな揃って止めた方がいいと言う。
虹遥ちゃんは陸上選手としてスゴい成績を残しているだけでなく同じ女性としても憧れるくらいかわいいからよく思わないファンの人も多くいると思うよ。
殺害予告とかあってからでは遅いよ。
これだけ自分のことの思ってくれる人がいることに嬉しく、ふざけて言った自分を悔いる。
栄光のまま
ある年に東北生命保険の君島遥那選手、ケガのため引退、翌年には岡野菜津莉選手、ケガのため引退、沖縄生命の南條優湖選手、出産のために休業といつも友達として同じランナーとして切磋琢磨してきた子たちがケガで引退、優湖ちゃんは出産で復帰するかも不透明。虹遥はどこで現役を引退時期を考えていた。
優湖ちゃんから送られてくる赤ちゃんの写真を見るとかわいい。
自分も直人との間に子どもが授かったら幸せなんだろうなとずっと眺めていた。
部屋にいる直人に話があると伝えると中に入れてくれた。
陸上選手、栗花落虹遥は来シーズンいっぱいで引退しようと思う。だから出場する試合は全部勝つつもりでいるから今まで以上にマッサージを宜しくお願いしますと頭を下げる。
すると直人から予想だにしないことを言われる。来シーズンが終わったら虹遥に伝えたいことがある。だからそのために一生懸命サポートするね。
また揶揄ってやろうと思って虹遥にプロポーズするつもりなの?そう言うと何で先に言うのと顔を真っ赤にしている姿を見ると納得をした。きっとどんな結果であってもプロポーズされるんだなと確信をした。
結果が全て
年が明けて春を迎え、陸上選手栗花落虹遥として最後のシーズンになる。
初戦の大会で優勝したのを皮切りに夏まで全勝で来ていた。この年、世界陸上が行われて虹遥もエントリーしていた。
誰よりも負けるつもりなどない、その気持ちでいたが世界の壁は高かった。それを見てやっぱり今年が潮時だな。秋まで楽しく走りきろうと誓う。
最終戦、虹遥は決勝に進めず予選敗退で陸上生活を終えた。直人からお疲れ様とハグをされてそのまま記者会見を開いて正式に引退することを告げた。
その後、直人と高級レストラン向かう。
「改めて陸上選手としてお疲れ様でした。栗花落虹遥さん、僕と結婚してください。これからは一緒に家族という人生を走っていきましょう」
1年前からプロポーズをされることは察していた。だがこうやって言葉にして言われると嬉しさと照れがある。指導者としてまた陸上に関われる日が来ることを願っていた。
市役所に婚姻届を提出した後、結婚会見をして披露宴会場には多くの人に祝福をされて幸せ者だと感じていた。
この数ヶ月後に体調が悪くなり、産婦人科に行くと妊娠が確認された。新しい家族が増えたことに喜びを感じて栗花落虹遥はママになった。
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