好きだった雨

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好きだった雨

今日も天気は雨。 昔は雨音が好きだった。雨が好きだった。 「雨音って何だか妙に落ち着くんだよね」 彼がよく雨の降る外を眺めながらそう言ってたから。 彼のお陰で私も雨が好きになった。 爽快な青を雲が覆い隠し静けさに包まれるのも、アスファルトに落ちた雨の匂いも、体へ当たり跳ねる雫も。 その全てが好きだった。 だって大好きな彼を思い出すから。 だから薄暗くも世界は鮮やかに、落ちる雨音は音楽のように聞こえる。跳ねる雨粒は踊ってるみたい。 私の心もカッパを着て水溜まりにジャンプする子どものように躍った。 それに雨の日は家の中で二人っきり何をする訳でもないけど、一緒にいられたから。その時間が好きだった。 今日も天気は雨。 今は雨音が嫌いだ。雨が嫌いだ 「雨音って何だか妙に落ち着くんだよね」 あのぼそりと呟くような声が雨音に交じり聞こえてくるから。 肌寒くなっても隣には誰もいないから。 降り頻る雨も、雨音も、雨の匂いも……全部が嫌い。 だって彼を思い出すから。 まるで私の心を反映させたような薄暗さで覆われたモノクロの世界。 不機嫌そうな暗雲からは神様の泪が零れている。私と一緒だね。 落ちる雨音が耳に入る度、心へ響いて悲しみが木霊する。鼓動に乗って全身へと広がっていく。切なくて、苦しくて、悲しくて、寂しくて……。 「君の所為で――雨の音に心がざわつくよ」 そう雨音に掻き消されそうな声でぼそりと呟く。 私は彼を真似るように外へ目をやった。 窓に映った私の頬には外と同じように大雨が流れていた。
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