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「よ、よろしくお願いします……」 そう挨拶しても、ピクリとも動かない。 ただ椅子にだらしなく座ってるだけだ。 「鶴田さん」 「あ、はい。なんでしょう?」 「なんでこの方、顔にミムタクのお面をつけてるんですか?」 「それは……個人情報でして……」 「個人情報? だって、お見合いですよ。私は素顔なのに、この方だけがお面って、変じゃないですか!」 「い、いや杉崎様……安心してください。見た目はそっくりですから」 「で、でもっ……!」 「とりあえず時間ですから、お見合いのほうを始めましょう」 鶴田に無理矢理押し切られ、彩は仕方なく篠原なる男の対面に腰掛けた。 目の前には、お面をつけた怪しい男。なんだこのお見合いは。 「あの……私、杉崎彩と申します。篠原さん、でしたっけ。下のお名前はなんとおっしゃるんですか?」 すると篠原は、だみ声でぶっきらぼうに答えた。 「留三。篠原留三(しのはらとめぞう)」 とめぞう? とても彩と同年代の名前とは思えない。 「それで、あの。ご年齢は?」 「ああ、58……違った、40。そう、40歳だよ」 今、58って言わなかったか? 「にしても、ねえちゃんよー」 「ね、ねえちゃん?」 「ちょいと太りすぎじゃねえか? 俺も昔は太ってたけど、酒飲みすぎて肝臓やられてからは、こんだけ痩せたんだ。へっへっへ……痛っ!」 見ると、泣きそうな顔をした鶴田が、こそっと篠原の背中をつねっている。 そして彩に向かって必死に笑みを浮かべた。 「あのあのあの……これは全部篠原様の冗談ですから! 篠原様はとっても、冗談がお好きな方でして。ほら、上流の方はよく、ウィットに富んだ会話をなさりますし……」 「は、はあ……」 それにしたって、初めて会う男の人から、太っていると言われるのは気分が悪いが……。 「それに……篠原様も初めてのお見合いですので、少々緊張しておりまして……ほら、誰でも緊張すると、心にもないことを言ったりするものでしょ? ですよね、篠原様っ!」 「ああ? 俺は全然緊張なんかしてねえけどよ……痛っ!」
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