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なんか、想像していたのと違う。 お面を被っていて顔はわからないし、身なりもだらしない。 身長も低く見える。おまけに、言葉遣いも悪く失礼だ。 こんなひとが本当に、年収800万の上流公務員なんだろうか。 「あの……篠原さん?」 「なんだい、ねえちゃん」 「お仕事は、消防庁関連ってお聞きしましたけど……」 「ああ、仕事ね」 篠原は、お面の中に指を突っ込むと、なにやらもぞもぞしている。 これはまさか、鼻をほじってる? 「前に田舎で村の消防団に入ってたんだ。まあ、ボランティアだから一銭にもならないけどよー」 「へっ、消防団!? 消防庁じゃなくて!?」 「消防庁ってのがどんなとこか知らんが、まあ似たようなもんだろ。こっち来て辞めちまったけどな」 「……じゃあ、じゃあ……今のお仕事は?」 「ああ、無職だけど?」 む、無職……!? 「だ、だって、年収が800て……」 「あ、うん。そのくらいはさすがに俺でも稼いでるよ。バカにすんなよう、ねえちゃん」 「す、すみません」 無職で、どうやって800万も稼いでいるんだろう。 まさか、はやりのトレーダーとか? それともユーチューバー? 「だって800円だろ。そのくらい自販機の下を探れば転がってるって」 「えっ!? 年収800万円じゃなくて……ははは800円!?」 かあっと頭に血が上った彩は、思わず立ち上がっていた。 そして篠原に詰め寄ると、ミムタクのお面を引っ掴む。 「ああっ! 杉崎様、おやめください。お面は取っちゃダメです!!」 悲痛な声を上げる鶴田を無視して、彩は篠原のお面をはぎ取った。 ああ……なんということだろう。 その素顔といえば、まさにミムタク……とは全然違う。 ずいぶんと離れた丸く小さな目。 でっかく平べったい鼻は大きな穴が丸見えで、ぽってりとふくらんだほおに、いかにも下品な大口。 ひとことで表現するなら……カバである。 しかもどう見たって40歳じゃない。 還暦前のオヤジだ。
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