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「鶴田さん!」 「は、はい……」 「これって、どういうことなんですかっ!?」 彩は鶴田に向き直り、その顔を睨み付けた。 「仕事は消防庁どころか、無職。年収は800万円じゃなくて800円。歳も希望と全然違うし、おまけに、この顔がミムタクですって!?」 「あ、いや、これは……」 鶴田は滝のような汗を流しながら、酷くうろたえている。 「ちょ、ちょっとした手違いがございまして……」 「ちょっとした手違い!? このひと、本当に会員なんですかっ! お見合いだというのに小汚い格好してるし、バカにした態度を取るし、全く婚活する気が感じられないじゃないですかっ!!」 「ええと、その……」 「この日のために、私がどれだけ気合いを入れて準備したか、わかってます!? 美容院に行って、化粧も念入りにして、奮発して新しい服や香水も買ったのに! すっごく楽しみにしてたのに……!」 いつしか、彩の目からはぽろぽろと涙が零れ落ちていた。 「酷い……ホント酷すぎる……」 泣いている彩を前に、鶴田はいきなりその場に土下座した。 「す、杉崎様! ももも申し訳ございませんでしたっ!!」 「土下座なんていいです……私のこと、バカにしてるんですよね。太ってて年増なのに婚活なんかしてるから……そうなんでしょ?」 そう彩が言うと、鶴田は土下座したまま、はっと顔を上げた。 そして必死に声を張り上げる。 「ちちち違いますともっ! 確かに杉崎様はすこーしふくよかで、すこーし婚活にはお年を召しているかもしれませんっ。ですがっ、そんなの些細なことでございますっ! いいですかっ! 人類の半分は男性なんですっ! その中には杉崎様とマッチする方が必ずいらっしゃるはずっ!」 「……もう、いいです。私、退会しますので」 退会という言葉に、鶴田はあわてて立ち上がった。 「待ってください! 今回は私どものミスで杉崎様には失望をさせてしまいましたが、弊社としましても、必ずやご期待に添えるように最大限の努力を致しますからっ!」 「でも……」 「私どもに挽回のチャンスを下さい! きっとご満足のいくサービスを提供致しますっ!! 必ずや杉崎様を幸せな結婚へと導きますっ!!」 泣きそうな顔で頭を下げ続ける鶴田を見て、彩の心は揺れ動いていた。 このひと……私のために、こんなに必死だ……。 おそらく本当に親身になって、私の結婚を考えてくれているんだろう。 だったら……もうちょっと様子を見てもいいかな……。 「……それは、本当ですか?」 「ももも勿論でございます!」 「わかりました……じゃあ、退会はいったん保留します」 「ああ、神よ……」 「ですけど、次回こそは期待していいんですよね!?」 「お、お任せを!」 気づくと、彩と鶴田はお互い泣きながら、手を取り合っていた。 それまでぼーっとふたりのやり取りを眺めていた篠原が、ぼそっと呟く。 「俺、もう帰っていいかい?」
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