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その日。
会社終わりの彩が駅に向かって歩いていると、ふと知らない女に声を掛けられた。
「あら……杉崎さんじゃない?」
「えっ?」
見ると、スーツからバッグまで、全身チャネルずくめの、いかにもゴージャスな女性である。
歳は彩と同じくらいだが、その顔は上品かつ美人。
「あの……どちら様でしょう?」
「やっぱり、わからないかしら」
「すみません……」
「渡来美希よ。もうすぐ苗字が変わるけどね」
「えっ! 美希!?」
美希は中学の時の同級生である。
いつもひとを見下した態度を取るので、あまり仲は良くなかったが。
それにしても、顔がまるで違う。昔は不細工だったのに。もしや、整形だろうか?
「ひ、久しぶりだね、美希。なんかずいぶん雰囲気変わったけど……」
「そう? ところで、彩のほうはどうなの。結婚した?」
「いや……まだ……」
「結婚の予定もないの?」
「……今のところはね。美希は、結婚するって聞いたけど」
「うん。来月、式を挙げるの」
そう言って、美希は左手の薬指にはめた、キラキラと輝く婚約指輪を彩に見せる。
それは見るからに高そうだ。
「おめでとー。素敵な指輪だね」
「うん、ハロー・ウィンストンよ。と言っても、200万程度の安物だけどね」
ハロー・ウィンストン!? 婚約指輪では人気ナンバーワンのハイブランドではないか。
しかも、に、にひゃくまん!? それで、安物!?
「彩、せっかく久しぶりに会ったから、カフェでお茶でもしない?」
いや。おなかが減ってどうしようもないから、早く家に直行したいのだが……。
痩せるためのダイエットを決意し、お母さんには夕飯のお米を5合から4合に減らすようお願いしてある。
「噂で聞いたわよ。彩が結婚相談所に通ってるって」
「ま、まあね」
「私も結婚相談所で旦那様を見つけたから、いろいろ相談に乗れるかも」
そうだった。
もとはと言えば、アズサから美希が結婚すると聞いて、私も急にあせり出したんだった。
たしか、結婚する相手は、同年代で安定の公務員だったっけ。
しかも、200万の婚約指輪が買えるということは、それなりのお金持ちでもあるようだ。
同レベルの相手を見けたい彩としては、美希がどうやってそんな優良物件をゲットしたのか気になる。
それに、婚活に関する有益な情報も得られるかもしれない。
彩はおなかをぐうぐうと鳴らせながらも、美希と近くにあるカフェに入ったのである。
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