2/3
前へ
/125ページ
次へ
ウエイターにアイスティーを頼むと、美希はしげしげと彩を見つめた。 「彩、ずいぶんと太ったんじゃないかしら」 ストレートにそう言って、小バカにしたように笑う。 「ま、まあ、ダイエットはしてるよ(今日からだけど)」 「ふーん。でも、簡単には痩せなさそう。そんな体型で、婚活するつもり?」 「やっぱ、だめかな……」 ちょっと傷ついて声を落とすと、美希は勝ち誇ったような顔で右眉をぴくりと上げた。 この見下した表情……中学の時から変わらない。顔は違うけど、やっぱり美希だ。 「ちなみに彩は、どんな男をターゲットにしてるのかな?」 「ええと……歳は30歳から40歳くらい。高身長、やせ形で筋肉質でイケメンで優しくって、年収は1000万以上」 とたんに、美希はぷっと吹き出した。 「あのさ、彩。それ、本気で言ってる?」 「うん、いたって本気だけど……」 「そんな完璧男が、アラフォーで太った彩みたいな女と結婚したいと思う?」 かちんとくる。 そんな言い方しなくたって、いいじゃない。 「もっと、身の程をわきまることも肝心ね」 「だって、美希だって年下の公務員、しかも婚約指輪に200万も出せるようなお金持ちの男を見つけたんでしょ。私も夢くらい持ちたいよ」 「夢を持つのはいいことだけど……現実をしっかり受け止めるなきゃ」 「現実って、どんな?」 美希はもったいぶるように、ウエイターが運んできたアイスティーのストローに口をつける。 仕方なく彩も、アイスティーをひと吸いで飲み干した。 「いいこと。彩の求めるような男は皆、20代前半の若くてキレイな女を探しに結婚相談所へ入会するの。アラフォー女なんて眼中にないわけ」 「そ、そうなの? だって美希は、同い年で条件のいい男を見つけたじゃない」 「あのね、私がこの婚活にどれだけ人生を賭けたかわかる?」 とたんに背筋を伸ばし、目をかっと見開いて彩を見下ろす美希。 「この7年間、他のことを一切捨て去って結婚相談所に通い詰め、延べ1000人以上の男たちとお見合いしたわ」 「ななな7年!? でっ、1000人とお見合い!?」 「それに、徹底的に自分磨きをした。ジムでのトレーニングは勿論のこと、体と心を整えるためにヨガやエステに通い、男心を知るために心理学も学んだ。そして、最も力を入れたのは……」 「もしかして……整形?」 「まあね。結婚するために、過去の自分をすっかり捨て去ったの。それだけ私は、婚活に人生の全てをつぎ込んだわけよ」 「ちなみに……これまで総額で、どのくらいかかったの?」 「うーん、2000万くらいかな」 2000万!  開いた口が塞がらない。 美希はまさに、婚活の女王である。 「まあ、将来の豊かな生活を考えると、そんなの安いものだけどね。で、彩。あなたに私のような覚悟はあるの?」 「……いえ、恐れ入りました……」 彩はすっかり打ちのめされていた。 そこまでしないと、いい男は見つからないのか。 少し結婚というものを、甘く見ていたかも……。 しゅんとした彩の様子を見て、美希はほくそ笑む。 「ところで私ね。結婚したらこれまでの婚活経験を活かして、婚活アドバイザーを開業しようと思っているの」 「へえ、そうなんだ……」 「それに向けた練習台としてなら、彩に婚活ノウハウをアドバイスしてあげてもよくってよ」 「えっ?」 練習台って……言い方ひどくないか? でも、美希の言うとおり、このままじゃダメだろう。 美希とはあまり付き合いたくないが……ここは仕方がない。 惨めな下僕は女王にひれ伏すのである。 「よ、よろしくお願いします、先生」
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2265人が本棚に入れています
本棚に追加