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ウエイターにアイスティーを頼むと、美希はしげしげと彩を見つめた。
「彩、ずいぶんと太ったんじゃないかしら」
ストレートにそう言って、小バカにしたように笑う。
「ま、まあ、ダイエットはしてるよ(今日からだけど)」
「ふーん。でも、簡単には痩せなさそう。そんな体型で、婚活するつもり?」
「やっぱ、だめかな……」
ちょっと傷ついて声を落とすと、美希は勝ち誇ったような顔で右眉をぴくりと上げた。
この見下した表情……中学の時から変わらない。顔は違うけど、やっぱり美希だ。
「ちなみに彩は、どんな男をターゲットにしてるのかな?」
「ええと……歳は30歳から40歳くらい。高身長、やせ形で筋肉質でイケメンで優しくって、年収は1000万以上」
とたんに、美希はぷっと吹き出した。
「あのさ、彩。それ、本気で言ってる?」
「うん、いたって本気だけど……」
「そんな完璧男が、アラフォーで太った彩みたいな女と結婚したいと思う?」
かちんとくる。
そんな言い方しなくたって、いいじゃない。
「もっと、身の程をわきまることも肝心ね」
「だって、美希だって年下の公務員、しかも婚約指輪に200万も出せるようなお金持ちの男を見つけたんでしょ。私も夢くらい持ちたいよ」
「夢を持つのはいいことだけど……現実をしっかり受け止めるなきゃ」
「現実って、どんな?」
美希はもったいぶるように、ウエイターが運んできたアイスティーのストローに口をつける。
仕方なく彩も、アイスティーをひと吸いで飲み干した。
「いいこと。彩の求めるような男は皆、20代前半の若くてキレイな女を探しに結婚相談所へ入会するの。アラフォー女なんて眼中にないわけ」
「そ、そうなの? だって美希は、同い年で条件のいい男を見つけたじゃない」
「あのね、私がこの婚活にどれだけ人生を賭けたかわかる?」
とたんに背筋を伸ばし、目をかっと見開いて彩を見下ろす美希。
「この7年間、他のことを一切捨て去って結婚相談所に通い詰め、延べ1000人以上の男たちとお見合いしたわ」
「ななな7年!? でっ、1000人とお見合い!?」
「それに、徹底的に自分磨きをした。ジムでのトレーニングは勿論のこと、体と心を整えるためにヨガやエステに通い、男心を知るために心理学も学んだ。そして、最も力を入れたのは……」
「もしかして……整形?」
「まあね。結婚するために、過去の自分をすっかり捨て去ったの。それだけ私は、婚活に人生の全てをつぎ込んだわけよ」
「ちなみに……これまで総額で、どのくらいかかったの?」
「うーん、2000万くらいかな」
2000万!
開いた口が塞がらない。
美希はまさに、婚活の女王である。
「まあ、将来の豊かな生活を考えると、そんなの安いものだけどね。で、彩。あなたに私のような覚悟はあるの?」
「……いえ、恐れ入りました……」
彩はすっかり打ちのめされていた。
そこまでしないと、いい男は見つからないのか。
少し結婚というものを、甘く見ていたかも……。
しゅんとした彩の様子を見て、美希はほくそ笑む。
「ところで私ね。結婚したらこれまでの婚活経験を活かして、婚活アドバイザーを開業しようと思っているの」
「へえ、そうなんだ……」
「それに向けた練習台としてなら、彩に婚活ノウハウをアドバイスしてあげてもよくってよ」
「えっ?」
練習台って……言い方ひどくないか?
でも、美希の言うとおり、このままじゃダメだろう。
美希とはあまり付き合いたくないが……ここは仕方がない。
惨めな下僕は女王にひれ伏すのである。
「よ、よろしくお願いします、先生」
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