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◇ すっかり遅くなった帰り道。 彩の心は、ボロボロだった。 あれから2時間に渡ってみっちりと、美希からキッツいアドバイスを受けたのである。 それは彩にとって、ショックの連続だった。 『39歳の今から婚活するなら、甘い願望はすっかり捨て去ること。正直に言って彩のレベルだと、相手の年齢は最低でも45歳以上、容姿不問。年収はまあ、300万程度かな。それで、やっと見つかるかどうかなんだから!』 その言葉にグサリときた。 それが現実だと美希は言うが、夢も希望もないじゃないか。 そんなに私って、価値のない女なのだろうか……。 『それから、せめて10キロ以上は痩せること。彩はぽっちゃりなんかじゃない。太ってるのよ。アラフォーの上に太っているなんて、婚活市場では無価値。いい? 誰からも見向きもされないの!』 そう言われても、ずっとこの体型なんだから仕方ないじゃない。 美希と別れた後、あまりのショックと空腹で、ラーメン3杯に餃子5皿を食べてしまった。 この調子じゃ、どうやっても痩せるのは無理だ。 『とにかく()り好みせずに、紹介されたら誰とでも会うこと。例えそれが不細工で貧乏な年寄りであってもね。一度逃したチャンスは二度と巡ってこないと心に命じなさい!』 ……ということは。 この前ヤケクソ結婚相談所で紹介された、カバみたいな顔をした留三さんであっても、付き合うべきだったのだろうか。 いやいや、さすがに留三さんは、生理的に無理だ……。 しかも無職だったし。 それでも結婚に向けて付き合うのは、どうしても考えられない。 今になって、急に結婚に焦り始めたけど……。 やっぱり、今頃になって結婚するのは難しいのかな……。 すっかり気分がヘコんで夜道をとぼとぼ歩いていると、スマホが鳴った。 「はい……」 『お、お世話になっております、ヤケクソ結婚相談所の鶴田です』 鶴田さんか。 なんか相変わらず、おどおどしてるな。 『せ、先日は、大変ご迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした!』 「いえ……」 『そのお詫びと言ってはなんですが……杉崎様だけの、スペシャルなプランをご用意させて頂きました』 「私だけの、スペシャルなプラン……?」 『はい。お年頃の素敵な男性会員をたくさん集めた婚活パーティーを開催致します。しかも、参加する女性は杉崎様、おひとりだけとなります!』 そういや美希も、結婚相談所が開催する婚活パーティーは積極的に参加しろって言ってたな……。 しかも参加女性は私だけって……男性がよりどりみどりってこと!? 『ただ、特別なパーティーですので、別途参加費が1万円ほどかかりますが……いかがでしょうか?』 1万円は痛いが……鶴田さんも私のためを思って、一生懸命企画を考えてくれたんだろう。 そう思うと、申し訳ない気持ちになってしまう。 とりあえず……参加してみるか。 たくさん男が参加するのなら、こんな私だって僅かながらでもチャンスはあるかもしれない。 「……わかりました。じゃあ、参加します」 『あ、ありがとうございます! ききききっとご期待に答えますからっ!』 電話を切った彩は、すっかり沈んでいた気持ちが、ちょっとだけ晴れてきたのを感じていた。
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