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鶴田に肩を押されて店内に入ると……。 そこは男たちで溢れかえり、すっかり喧噪に満ちていた。 テーブルは取っ払われ、皆、ビールが入ったコップとつまみの皿を手に立食している。 ほかに女性の姿はなく、彩のためだけに開催された婚活パーティーという鶴田の言葉は本当らしい。 男性会員が1000人いるって、あながち嘘じゃなかったんだ。 だったら、なんで最初っからマトモなひとを紹介してくれなかったんだろう。 それにしても、私だけのためにこんなに沢山の男性が集まるなんて。 ああ、どきどきが止まらないよ……。 「杉崎様! ビールでよろしいですか!」 なぜか厨房に入った鶴田が、彩に向かって威勢の良い声を上げる。 鶴田さん、なにやってるんだろうと思いつつも、はい、と返事した。 コップを受け取って改めてあたりを見渡すが、彩に声を掛けてくる男はいない。 婚活パーティーなのに……みんな、シャイなんだろうか。 そう言えば美希も言ってたな。 最近の男たちは、女性の扱いが苦手である。恥ずかしがり屋も多いらしい。 だからパーティーでは、自分から積極的にどんどん声を掛けなさいって。 彩は、思い切って目の前にいた、赤ら顔をした中年の男に話しかけた。 「あの……杉崎彩って言います」 すると男は、あまり気の無いように返してきた。 「ああ、いいよ。自己紹介なんて。こんな機会めったにないんだから、どんどん飲もう! 食べよう!」 そう言いながら、ビールをごくごく飲み、皿に盛られたトンカツをむしゃむしゃと頬張っている。 婚活パーティーって、はじめてだから良くわからないが……。 ふつう自己紹介とか、しないものなのだろうか。 いや、さすがにそれは違うだろう。 このひと、顔はそれなりだけど、婚活よりも飲食に夢中のようだ。 だったら、もっと話ができるひとを探すか。 あっ、奥にいるあの30代(なか)ばくらいのひと、爽やかな顔をしてて好みかも。 ひとが多すぎて、おなかがつっかえるからなかなか前に進めないな〜。 よいしょ、よいしょ。 ふう、やっと辿り着いた。 「すみません、ちょっとよろしいでしょうか?」 「あ、うん、いいよ」 その男性はにこやかに、優しげな目で彩を見つめた。 ああ、この人は感じも良さそうである。 「はじめまして。私、杉崎彩って言いますが……」 「ご丁寧にありがとう。アヤちゃんか。いい名前だね。僕は上沢幸司(うえさわこうじ)です」 話し方も爽やかだ。 このひと、いいかも。 なんだか、ようやくちゃんとした婚活ができそうな気がする。 こういうのを待ってたのよ。 なんとか頑張って、話を続けないと。
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