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その男は、誰が見てもイケメンだと言うであろう。
ストレートのさらさらとした髪は、少し長めで目にかかり。
その切れ長の目はクールさを感じさせ、高い鼻に薄い唇が顔全体を整わせている。
加えて顔の輪郭もシュッとしており、凜々しさを加味させていた。
身長は高く、180cm以上はあるだろう。
やせ形だが、服の上からも程よく筋肉がついているのが見て取れる。
着ている黒のスーツは、いかにも高級そうだ。
腕には、さりげなくロメックスの時計が輝きを放っている。
帰ろうとしていた彩は思わず足を止め、そのイケメンに魅入っていた。
「にゅ、入会ご希望ですか……?」
鶴田は、あっけに取られたようにそう言った。
そりゃあ、そうだろう。
颯爽と現れた完璧なイケメン男が、いきなりこんな怪しげな結婚相談所に入会したいと切り出すのは、どう見ても変である。
「はい。すぐにでも結婚したくて」
イケメン男は、表情を変えずにハスキーボイスでそう答えた。
「名前は、東雲翔、36歳。東大卒の公務員。今の年収は1000万ほど。この条件で結婚相手を見つけるのは難しいでしょうか」
聞かれてもないのに、すらすらと自己紹介するイケメン男。
いやいや完全に、高学歴、高収入、高身長の三高ではないか。
「いや、難しいと言いますか……」
「やっぱり、条件が低すぎますか?」
「ととととんでもない! 素晴らしいご条件で、婚活女性であれば誰でも飛びつくと思いますよ。ただ……」
「なんでしょう?」
鶴田は、酷く困惑した表情で、扉の前にいる彩をちらちらと見る。
「実は……たった今、ひとりいた女性会員のかたが退会されて……ご紹介できる女性がいないのです……この結婚相談所も廃業を考えておりまして……」
鶴田のその言葉に、東雲と名乗ったイケメン男は唇を噛みしめた。
「そうか……それは残念だ。困ったな……」
気づくと、彩は勝手に口が動いていた。
「あの、鶴田さん! 私、退会するのは、もう少し後でもいいかも……!」
ああ、私ったら、いきなり何を言い出すんだろう。
こんな高スペック男が、私なんか相手にするはずもないのに!
恥ずかしいったら、ありゃしない……。
だが、東雲は振り返って、彩をじっと見つめた。
「ええと、君の名前は?」
「あ、彩って言います。杉崎彩です……」
そんなクールな目で見つめられると、ドキドキしてしまうよ……。
「ここの会員なんだよね?」
「え、ええ。まあ……」
東雲は無表情のまま彩を上から下まで、すっと目を流す。
そして、鶴田に向かって信じられない言葉を放った。
「俺、彩さんとお見合いしたいから、入会させてもらえます?」
ええっ!?
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