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◇
東雲が入会を済ませた後。
東雲の強い要望で、そのまますぐにお見合いの流れとなった。
彩は、あまりの急展開に心の準備がまったくできていない。
さっきまで、ヤケクソ結婚相談所を辞めるところだったのである。
なのにいきなり、こんないい男とお見合いすることになるなんて。
「……俺、どうしても1ヶ月以内に結婚したいんだよね」
テーブルの向かい側で、長い足を組んで座った東雲がクールな目で彩を見ながらそう言う。
だけど、彩は呆然としたまま固まっているだけだ。
「彩さん、聞いてる?」
「あっ、は、はい……」
初対面なのに、いつの間にか下の名前で呼ばれていることに気がついた。
でも、なんだか悪い気がしないのは、なんでだろう。
「だから気が合いそうだったら、まだるっこしいことせずに、すぐに付き合いたいんだ」
「は、はあ」
「じゃあ聞くけど、彩さんってどんなひと?」
ああ……なんて答えればいいんだろう。
「ええと……39歳で……未婚です……」
「未婚だってことは、わかっているよ。だから、結婚相談所に入会してるんだよね?」
そりゃそうだ。
なに言ってるんだろう、私は。
なんだかぽーっとしちゃってて、頭がうまく働かない。
「す、すみませんっ……!」
「いいんだ。もっと気楽に話してみて」
「……山田商事って言う、小さい会社に勤めてます。特技は、どこでもすぐに寝れること。そして趣味は……ええと、食べることです」
「へえ、好きな食べ物ってなに?」
「そうですね……焼き肉にお寿司に、カレーライス、パスタ、ハンバーグ、ラーメンにうどんに親子丼にオムライスに……」
東雲が待った、というように右手を上げる。
それで彩は、はっとした。
私、こんな席で、なにを言ってるんだろう……。
「要は、食べ物ならなんでも好き、ってことかな?」
「は、はい。その通りです……」
自分でも、顔がまっかっかなのがわかる。
ああ、もうだめだ……。
東雲さん、呆れちゃっただろうな……。
だが東雲は、表情をぴくりとも変えずにこう言う。
「それって好みだな、俺」
「えっ?」
「だって食べるのが趣味な子って、本当においしそうに食べるだろ。決して残さないで綺麗に食べるし。そういうのって、いいと思う」
これまでの人生で、大食いを褒められたことってあるだろうか。
こんなことを言ってくれるなんて……なんだかきゅんとしてしまう……。
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