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空と僕の演奏会
雨の音で目が覚めた。
遮光カーテンと窓を開けば、しっとりとして少し冷ややかな空気が部屋に訪れる。部屋を満たす雨音に、少年はしばし耳を傾けた。
雨は昼ごろまでに上がるらしい。まだ家人もほとんどがまどろみの中にいる、夜も明けやらぬ早朝に。少年は大きな屋敷を抜け出した。その手にあるのはビニール傘が一本だけ。
屋根を、傘を、土を、アスファルトを叩く雨音は美しい。空は雨音で流麗な旋律を奏でる。雨の中を歩む少年の足音は装飾音。さしずめこの世界は空にとってのオルケストラ。ときに強く、ときに弱く、テンポはそう歩くような速さで。
誰に聞かせるわけでもない演奏会は、もう少しだけ続いていく。
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