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鼻を刺激する独特な香り。耳に届いてくる心休まる旋律。
天から届く地への恵みが奏でるそれらは我の大好物である。
雨の独特な香りに胸が歓喜するのを感じ我の頬は緩みそうになる。
耳に届く穏やかな旋律に、気持ちは高揚し、今ならば嫌いな奴等とでもティータイムを嗜めそうぞ。いや、嗜んではやらんがな。
我は前世で、"青の魔女"と呼ばれる存在であった。青は我の魔力の色を指す。つまりは我は水を好む魔女であったというわけだ。
理から外れて魔女となった我であったが、それでも死からは逃れられず、新たな生へと旅立った。"記憶を残したまま"、な。
理から外れた我は、どこまでも外れた存在なのやも知れぬ。あるいは、理から外れ魔女となった罪を、神とやらが忘れるるべからずと言うておるのやも知れん。
ま、真実は分からぬが、ともかく我は記憶を保持したまま、転生したのだ。
そこまではいいとしよう。
雨の日にしか、魔法を扱えぬという制約があるとはいえ、魔法が扱えるのも助かっておる。雨の日に魔具を作っておけば、多少は晴れた日も魔法が扱えるしの。
ただ、問題もあった。我はこともあろうか、恋愛小説の中に転生してしまっておったのだ。それも我が前世でハマっていた小説の中に、だ。
魔女が巷に流行っていたよくあるような恋愛小説を読むのかって??おかしいと思うか?
ふんっ。やかましいわ。
理から外れた存在であるとはいえ、我かて乙女なのじゃぞ。魔女として何百年も生き、ババアなどと悪態をつかれることもなくはなかった。しかし、恋愛小説を読んで萌え萌えキュンキュンするくらい、誰にも迷惑かけんのだから良かろうて。
窓辺で雨音に包まれながら読む本は格別なんじゃ!シトシトと降る雨の中、魔力が高まる高揚感に身を包まれ、物語に身を投じる時は至福なのじゃぞ。ソレがわからぬ愚かなものどもの方がよほど哀れなものよ!
ともかく!
我が転生したのは我の読んだ小説の一つじゃった。題名は忘れてしまったがな。
確かあれは主人公と王子が結ばれる話。身分違いの2人が学園で出会い、公爵令嬢という壁やら身分違いの壁やらに翻弄されつつも、愛を育み、最後は結ばれハッピーエンド。公爵令嬢が断罪されるシーンは爽快であったのを覚えておる。
…………物語として読む分には楽しめるんじゃが、いざ、その登場人物となれというのは中々きつかろう?
我、悲しきことに"主人公"ぞ?笑えぬ現実じゃ、いやまったく。
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