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雨音を楽しみながら小説を貪る時間は、まさに我にとっては甘美なひとときと言えよう。我は雨が降れば、窓辺で本を読んでおった。
あの頃、読んでいるときに何ら感じるものはなかったが、こうして世界に入り込んでみれば物申したく事もあるわけじゃ。
よくよく考えてみぃ。
ぶっちゃけ王子、最低じゃと思わんか??
王子は婚約者がおるんじゃぞ?文武両道な優等生を絵に描いたような優秀な娘で、品行方正な公爵令嬢が婚約者なのじゃ。
だというのに、主人公が好きになったからと王子は婚約者を捨てた。それだけでクソ野郎決定じゃ。自身の婚約者を大切に出来んなど、ありえんわ。
我は令嬢として生きる中で思ったわけじゃ。主人公として王子と結ばれとうない、と。
国のための婚約。それを王子でありながら破棄し、あろうことか公爵令嬢を断罪し斬首したのじゃぞ。公爵家と王家の間に亀裂を入れたのじゃ。しかも、令嬢を断罪するには甘い罪でな。アホじゃろ。国を慮る行動が取れぬとは、王族として失格としか言えまいて。
ゆえに。学園に行っても決して王子には関わらないと決めておった。物語を始めさせなければ良いのだと。
じゃというのに。
強制力というやつじゃろうか?王子との出会いイベントというやつから逃れられんかった。こちらが望んでもないというのに、王子の我に対する好感度は上がるばかり。ふざけるでないわ。こんな奴に好かれるなど、虫唾が走る。
公爵令嬢からは案の定、嫌われておる。当然じゃな。しかし、彼女は我をいじめたりはしておらん。断固として明言する。
彼女は確かに物言い厳しく我を叱咤した。しかし、内容としては婚約者のいる殿方と2人っきりとなるのは控えろといったような内容。
我とて避けようとしておるのに、避けきれず王子なんかと2人となってしまっておるが、婚姻前の乙女の行動として褒められたことではないことなのは分かっておる。
公爵令嬢は度々、我を叱咤するが、それも我を慮っての事だと伝わってくる。言い方はキツくとも、心優しき令嬢じゃ、全く。
物を隠したり、制服を傷つけたりは他の令嬢たちがやっておったが、彼女が指示したわけではないのは確認済み。
作中では大した証拠もないまま、しかし、彼女の指示だとしていた。おそらくはすべての罪をなすりつけられたのじゃろうて。
いやいや、哀れ。哀れじゃ、悪役令嬢。
悪くないというのに、最期まで凛と胸を張り断罪される姿に、かつては最期まで虚勢を張るとは往生際が悪いなどと思っていたが、今ならば不憫にしか思えぬ公爵令嬢の境遇に涙が出そうじゃ。
王子は避けられず。作中の王子との親密さを増していくためのイベント類も避けられず。好感度は望まずとも上がっていく。どうにもならないまま、日々は過ぎていってしもうた。
この状況を打破するため、我は決めた。
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