国選弁護人①

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国選弁護人①

拓海(タクミ)は気が立っていた。 何でここ、留置場にいるか分からなかった。なぜ、ここが留置場だと分かったかと言うと、拓海には前科があった。覚せい剤取締法違反だ。その時にぶち込まれたのも、留置場はこんな感じだった。 彼は出所してから、民生委員の紹介でダルクという薬物治療者の療養所にいた。ついこの間までいたのは板橋ダルクであった。 拓海は覚醒剤常用者で執行猶予中だった もう、薬はキメていなかった。クスリなんか効かないし何よりダサいと思った。現実の方がずっと、トリップできる。 性交渉の時、キメていると確かに高揚感はある。だが、それだけだ。行為、以外でクスリを使うこともないだろう・・・ もう、クスリに頼る生活には戻らない。板橋ダルクの世話人とも精神科医とも約束した。 簡単だ、覚せい剤に頼らず、向精神薬を拠り所にすればいい。精神安定剤でも酒と一緒ならトリップできる。 板橋ダルクでも所長先生を初め、タカヤナギさん、クワバラさん、アキヨシさん。イワブチさん。キヨタさん。サカキさん。色んな人にお世話になった。 本当にありがたいと思う。 覚醒剤は怖い。。。 「佐藤拓海、弁護士の接見だ。」 看守の冷たい言葉が部屋と同じように、留置場に響いた。 「はい・・・」 佐藤拓海(さとうたくみ)はゆっくりと立ち上がった。ふらつきがある。何故だろう?あのオトコ達に殴られたからか。向精神薬を飲んでいない離脱症状か?一週間前から何回、お薬を飛ばしているだろうか?飲まなくてはならないのに。 『お薬は飲みましょう・・・』 精神科主治医の声が拓海の脳内に響く。 「お薬、お薬、おクスリ、クスリ・・・クスリ・・・ヤク!ヤク!ヤク!をくれ!」 彼はギヤーーーーーーーッ!と叫んだ。 「佐藤!落ち着け!落ち着くんだ!家族も来てるぞ!」 キーーーーーーーーッ! 「ダメだ。興奮してる。今日の接見は中止だと弁護士に連絡しろ!」 インターフォンから看守の耳に命令口調で声が聞こえてくる。看守の上席だろうか? カッツーン!カッツーン!カッツーン!看守のゆっくりとした足音が遠くなり、消えていく。 看守は接見室に向かっていた。
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