15人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
琢磨との電話を切り、親友の由香に電話をする。
「由香?琢磨が来るの明日だって、暇になっちゃったから今から会える?」
用事があるから無理の答えを聞き電話を切る。
近くに住む由香のスマホからは当然、雨の音が聞こえる。
出掛けよう……。今日の為に買ったワインレッドの傘を取る。その横には琢磨とお揃いのモスグリーンの傘。
よく来るマンションの前に立っていた。
「二人ともお帰り……」
ここにいるはずのない琢磨と 用事があると言った由香に口元だけで笑って迎える。
「「えっ!」」
私は傘をたたんだ。
先の方からキュッキュッと回して絞りこむ。
固く……固く……絞って、絞って……細く、細く……。ボタンを止めた。
「摩耶、な、何してるの?こんな土砂降りなのに!寒いんでしょ?唇震えてるよ?」
そう言う由香の声も震えてる。
モスグリーンの傘を持つ琢磨の手も震えてる。
辺りは白く霞むほどの雨。目の前の二人しか見えない。
だから回りのだれからも何も見えない……。
口元だけ笑って由香に近づいた。
「摩耶!やめっ……………」
「……………………………」
ビシャン!
アスファルトには雨が落ちる音とは違う音がした。
ボタンを外し傘を開いた。
土砂降りの雨は都合がいい。
声を書き消し、開いた傘の汚れも流してくれる。
この雨音が私の忘れられない音になる。
さぁ帰ろう……。
最初のコメントを投稿しよう!