土砂降りを待っていた

2/3
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
琢磨との電話を切り、親友の由香に電話をする。 「由香?琢磨が来るの明日だって、暇になっちゃったから今から会える?」 用事があるから無理の答えを聞き電話を切る。 近くに住む由香のスマホからは当然、雨の音が聞こえる。 出掛けよう……。今日の為に買ったワインレッドの傘を取る。その横には琢磨とお揃いのモスグリーンの傘。 よく来るマンションの前に立っていた。 「二人ともお帰り……」 ここにいるはずのない琢磨と 用事があると言った由香に口元だけで笑って迎える。 「「えっ!」」 私は傘をたたんだ。 先の方からキュッキュッと回して絞りこむ。 固く……固く……絞って、絞って……細く、細く……。ボタンを止めた。 「摩耶、な、何してるの?こんな土砂降りなのに!寒いんでしょ?唇震えてるよ?」 そう言う由香の声も震えてる。 モスグリーンの傘を持つ琢磨の手も震えてる。 辺りは白く霞むほどの雨。目の前の二人しか見えない。 だから回りのだれからも何も見えない……。 口元だけ笑って由香に近づいた。 「摩耶!やめっ……………」 「……………………………」 ビシャン! アスファルトには雨が落ちる音とは違う音がした。 ボタンを外し傘を開いた。 土砂降りの雨は都合がいい。 声を書き消し、開いた傘の汚れも流してくれる。 この雨音が私の忘れられない音になる。 さぁ帰ろう……。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!