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吐○鍋
ぶつ切りにされたそれを、彼は朝食を作る調子で鍋に放り込む。
煮え滾る鍋の湯気の匂いはアンモニアの匂いと、嘔吐を誘う腐臭だ。油まみれの換気扇は全く役目を果たしていない。床や壁も茶色くこびり付いた油でびっしりだ。
ここが営業中のどこかの厨房であるなら、もっと掃除をした方がよい。
男はどんな時でも冷静さを失わない自信があった。…だがそれが地盤から揺らぐ自体が起きるとは、予想していない。
「話す気になったか?」
よく通る声は上機嫌なのか、弾んだ声色だ。しかし彼の問にそこにいる誰も返答できはしない。それがわかっていてあえて問いかけているのだ。
それを大きなお玉でグルグルとかき混ぜて、軽快な口笛を我々に披露する。
壁を這うゴキブリを彼はお玉で乱暴に叩き、ドボン、と汁にまた具材が追加された。
「隠し味」
ちらりと隣を見やると、男と同じように手足を椅子に縛られダクトテープで口を塞がれた男女3人が、その男に恐怖していた。それはこの男がいつ豹変して我々に危害を加えるか分からないからだ。今は機嫌よく調理していても、数秒後には暴れ回る可能性がある。
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