吐○鍋

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骨の軋む音が右耳にべっとりと張り付く。男は先程までの上機嫌が嘘のように攻撃的に変わる。 「決めた、今からこの女を殺す」 低く冷静な声色が恐ろしい。まだおかしな口笛を吹いて狂気に徹底していればいいものを、まるで素に戻ったかのように男は言うのだ。 「お願い、それだけはやめて!」 「うるせぇな。仲間を簡単に切り捨てるからだ。仲間ってのはな、替えがきかないんだよ。」 男は鍋を抱えると、その中身を彼女の頭から一気に被せた。何時間も煮込まれたその中身を浴びたなら、皮膚が爛れるだけでは済まない。 「ぎゃあああ!!」と彼女は悲鳴を上げ、肩を痙攣させる。 生きているのか、死んでいるのか、彼女は白目を向いて天井を仰いでいるのだ。…気を失っているだけだと思いたい。そして床に転がるぶつ切りのそれは、煮崩れしたのか原型を留めていない。 立ち込める湯気に、胃の中の物が逆流する。勿論テープで塞がれ口の中に留まるのだから、さらなる吐き気を呼び寄せる。 口内が爛れるように熱く、鼻の奥までもそれはせり上がってくるのだ。
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