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ご飯を食べて、キスをして、一緒にお風呂に入って彼と一緒のベッドで眠る。彼に腕枕してもらいながら寝息が聞こえるまで待つ。スースーと寝息が聞こえて私は安心して目を閉じた。
キスより先はしたことがない。裸を見られても彼は私とセックスすることはなかった。一緒のベッドに入っても添い寝だけ。もしも私が彼のことが好きだと告白したら彼はどう答えてくれるだろう? いや、この奇妙な関係が壊れてしまう。
友達も、両親にも、彼のことは話していない。きっと話したらそんなのありえないと怒られる。恋人でもない相手を部屋に招き入れている。
私もおかしいと思うのに、一人でいる時間を埋めてくれる彼が愛おしい。雨の日だけ来てくれる彼が好きでそれ以上に進んだらきっと彼の嫌なところを見つけてしまうのが怖い。この関係が壊れてしまう。
「…………」
眠るながら彼が別れた彼女の名前を口にする。彼は今も彼女ことが好き。そう思うとよけいに辛い。私は苛立ちまじりに彼の背中をつねった。彼は目覚めない。
「バカ」
バカどっちだろう。少しでも彼の温もりを感じたくて私は彼に抱きついた。汗と男の人の匂いで頭がくらくらした。背中を撫でると彼が私を見ていた。
「起こした?」
「ううん、平気」
ちょっと腕が痺れちゃったと笑う彼を押し倒して馬乗りになる。驚く彼を見下ろしながら彼の唇を奪った。セックスしたかった。愛されていると感じたかった。
「ごめん」
「なんで謝るの。いいよ。ほら、セックスしよ」
彼の手を私の胸に当てる。ドクン、ドクンと心臓が鳴り響く音がする。頬は赤くて恥ずかしくて死にそうなほどなのに、
「君には感謝してるよ。でも、こういうことはダメだ」
だって君と僕は恋人じゃないからと彼は言う。
「キスしたのに?」
「それは、ごめん」
謝ってばかりだ。私は彼が謝るといつもイライラした。ポンッと彼を叩く。彼女と別れた理由は彼のこういったところだ。
優柔不断で、謝れば許してくれると思っている幼稚さが苛立たさせる。もっとほかにも言えることはないの?
「それと君との関係も、これで終わりにしたいんだ」
「え?」
「好きな人ができた。もう会えない」
「勝手だよ。そんなこと!! なんで、何も言ってくれないの。私は!!」
貴方が好きなのに!! これだけ愛してるのに!!
「雨の日だけだよ。会えるのは、これからも続けていこうよ。ね? 料理のレパートリーも増やすし、わがままも言わないからお願い」
「君には感謝してるよ。でも、こんな関係はずっと続けていけない。そう思わない?」
彼がベッドから降りていく。
「どこに行くの?」
「帰る」
「いやっ!!」
「もう会えないんだよ」
明確な拒否に、私はただ彼の背中を見つめることしかできなかった。雨がいつまでもやまない。男はいつも勝手だ。
ずっとずっと一緒にいられたら幸せだったのに。彼はそれから二度と会うことはなかった。辛い気持ちをいつまでも押し止めることができなくて、私は一番の友人に打ち明けた。
お気に入りの喫茶店で彼女に話した。
彼と雨の日だけに会っていたこと。
出会いが最悪だったこと。
彼のことが好きだったこと。
「ふーん、へー、ほうほぅー。なんか怪しいなぁーとは思ってたけど、そういうことだったのね。あ、注文していい?」
「ちゃんと聞いてる?」
「うん。聞いてる。聞いてる。そっかぁ、いいなぁー雨の日だけに来てくれるかぁ、ロマンチックだねぇ。恋してるねぇ」
メニューを見ながら友人が言う。彼女の興味は私よりもケーキらしい。
「おごるからぁ、ちゃんと聞いてよ」
「オッケー聞きましょう」
ニヤッと友人が笑った。その笑顔はずるいと思う。卑怯だ。ひとまずケーキと紅茶を注文した。
「それって貴方のこと好きでしょ」
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