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「え、えぇ、それはないでしょ。好きな人がいるって言ってたんだよ」
「はぁーわかってないなぁ、そんなのウソに決まってるでしょ。彼からしたら貴女から告白してくれるの待ってたに決まってんじゃん」
わかってないなぁーと二回、言った。大切なことらしい。
「いい? 彼女に振られて、酔っぱらって、介抱されて、そんな相手を好きになりましたって告白されたら貴女はどう思う? 貴女がその立場だったらどう感じる?」
「怪しいし、ちょっと怖いかも、ヒモになりそう」
「そう。それよ。彼からしたら告白したくてもできない状況なわけよ。さんざん自分の情けないところを見せておいて好きになりましたなんて言えないもの」
だから、
「貴女のことが好きになったのがいつかわからないけれど、好きでもない相手の部屋に行きたいとは思わないし、キスもしない。そもそもせっ」
「あーあー、ここは喫茶店です。そういうのはタブーですぅ!!」
シーッと人差し指をたてた。店員さんにごめんなさいと謝って、
「ま、いいんじゃない? そんな関係なんて長続きしないわよ。ほら、今度、合コンがあるのよ。参加しない? 失恋したときは新しい恋を始めるべき」
「う、うぅーーーーーーーーーーーーーーーーーん」
「未練たらたらじゃん。もう、連絡先が消した?」
「消してない」
彼からのLINEが来ると期待しています。はい。電話番号も消してません。はい。
「あーもー、そうやって受け身じゃダメ!! ほら、スマホを貸して」
「あ、うん」
はいと手渡す。友人は手早くパスコードをといて電話帳を開いて、え? ちょっと待って。
「はい。電話かけたわよ。LINEじゃ既読スルーされるかもしれないしね」
返ってきた。通話中だった。
「も、もしもし」
『あ、うん。久しぶり』
行けと友人が指示する。でも、言葉が出てこない。そういえば私から電話もLINEもしたことがなかった。
「あー!! ごほんっ、ねー、今度さぁ、合コンどうするぅ!?」
わざとらしく友人が言った。それは彼にも聞こえていたようで。
『合コン?』
「あ、えっと違う!! 違うよ。その私、私ね」
『うん』
「待ってる。よ。ずっと待ってる。雨が降ったら、また、会いたいって思ってる。ずっと待ってるから」
溢れだした気持ちをおさえることができなくて、
「好きになったの。きっかけとか、出会いとか、そんなのどうでもよくて、貴方が好きになってしまって。私は貴方ことが!!」
『ちょっと、ちょっと待って!! いきなりすぎて話がついてこない。その僕には…………』
そんな私達を見ていた友人がはぁーっとわかりやすくため息をついた。めんどくせーと表情を隠そうともしない。
「それなら私、ご、合コン行くからね!! もういい人、見つけるからね!!」
言ってしまったと後悔した。合コンなんて行きたくなかったのに。
『それは、困る』
「なんで? 好きな人がいるんでしょ」
私なんて興味はないんでしょ。どうでもいいんでしょ? どうせ私はめんどくさい女だもの。わかってるもの。
自分からじゃ好きって言えないくせに、彼に言ってほしい。わがままだもの。私は、
『今度、雨が降ったら会いに行っていい?』
「なんで、」
『す、好きな人に会いたいからって言ったらダメかな? こんな俺だけど、すげー情けないし、ウソもついたし、あー頭がごちゃごちゃしててうまく言えないけどっ』
彼は言う。
『君のことが好きなんだよ!!』
「約束できる? 雨が降ったら来てくれる?」
ぎゅっとスマートフォンを握りしめて、
「待ってる。ご飯、作って待ってる」
雨が降ったら会いに来て。私は料理を作って待っている。彼の返事は。
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