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正確には、灯には彼氏がいるのだが。灯以上に忙しい仕事をしているとのことで、どうしても会える機会が限られているのである。特に、この飲み会を始めて土曜日の予定が変更になったことは僅かばかりしかない。それこそ、私がワクチンの副作用で熱を出して動けなくなった日くらいなものだ。
『……ううん、へーき。あたしも、瑞帆っちと喋ってる方が気楽だし』
その時、電話の向こうで少し大きな音がする。物が落ちたような音だ。大丈夫!?と私は再度大きな声を出してしまう。
「ちょ、平気?なんか物が崩れ落ちるような音したけど!?」
『あー、大丈夫大丈夫なんでもない。それより、相談乗ってもらえる?あんま楽しい話じゃないかもしんないし、いい気持ちで飲めないかもしんないけどさあ』
「それは別にいいけど……」
ズガアアン!とでも言うような爆音が響き渡った。今度は私の家の窓の方からである。私は思わず体をびくりと震わせて、そろりそろりと窓際に近付いた。
そして思わず“うわっ”とドン引いてしまう。いつの間にか、マンションのベランダがびしょびしょに濡れていたからである。夜なので外の景色はわかりづらいが、それでも激しい雨音と濡れた窓ガラスの様子はわかるというもの。そういえば、朝まで関東を中心に土砂降りの雨が続くかもしれない、みたいなことを天気予報で言っていたような気がする。
――うへえ。困るなあ。せめて朝の通勤時間には止んでるといいんだけど。
どうして雨というやつは、もっとこう少しずつコンスタントに降るということをしてくれないのだろうと思う。ここ二週間ばかりまったく降る気配もなかったくせに、今日になって突然コレである。恵みの雨は大事だが、少しずつしとしと降ってくれれば水害に見舞われるような心配もないというのに。
「……謙一さんと、やっぱりうまく行ってないんだ?」
私はカーテンをそろそろと閉めながら告げた。分厚いカーテンを閉めていてもなお聞こえてくる、激しい雨の音。外にいたら一秒でずぶ濡れ待ったなしだろう。深夜に働いている仕事の人が気の毒というものだ。灯の年上の彼氏である謙一も、深夜残業の多い仕事をしていたはずである。
『うまく行ってないつーか、あたし近いうちにフラレんのかなって』
あはは、と乾いた声で笑う灯。
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