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雨音に閉じ込められた学内でも生徒の声はよく響く。
保健室特有の香りを舞い上げるヒーターの風が肘をぬくめる。
笑いながら通り過ぎて行く女子生徒の軽い足音、走るなという貼り紙の存在すら知らないであろう男子生徒の声。
この部屋には来客が少ないほうがいい。
昼休みを告げるチャイムに視線を上げて、室内の隅に設えられた簡素なコンロで湯を沸かしてコーヒーを淹れる。
控えめなノックに在室の声を投げると、引き戸を開けたのは細身の男子生徒だった。
「失礼します」
ここに来る程体調が悪いのだろうに、律儀に礼をするのを眺めながらデスクに着いて足を組む。
「今日はどうした?」
アルコール綿で拭った体温計を差し向けつつ問うと、会釈をして椅子に座りながらそれを受け取った相手が生真面目に第1ボタンまではめていたシャツの首元を寛げて体温計を脇に差し込みつつ小さく答える。
「少し、頭痛がして」
この生徒は季節の変わり目に体調を崩すことが多い。
今日は熱発していそうだと薄く染まった俯きがちの頬を眺めているとタイミング良く鳴る体温計。
デジタルモニタには37.5℃の表示。
微熱ギリギリの数値ではあるが、この生徒の平熱は低い。
「風邪気味? ベッド空いてるよ」
カーテンが全開にされた無人のベッドスペースを示すと、ちらりと視線を遣って緩く首を振る。
他の生徒なら選ばせる体温だが、彼の場合は問答無用だとデスクの上の来室者名簿に学年とクラスと出席番号、氏名と症状、処置欄には投薬と安静と書き込んで内線を取り上げる。
「寝ていきな。酷くなったら困るでしょ」
デスクに置いてあるファイルに挟んだ全学年、全クラスの時間割表から彼の次の授業担当教諭を見つけて呼び出しをかけ、休ませる旨を伝える。
理系特進コースの彼にとって次の科目は必須だろうが、風邪を見過ごして悪化させるのは職務怠慢だろう。
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