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昼食を摂れなかったという彼に冷蔵庫の紙箱から出したマドレーヌをひとつ食べさせ、ぬるま湯で感冒薬を飲ませてベッドに寝かせる。
デスクに戻ってコーヒーカップの釉薬に唇を当てたまま時計を眺めると、自分も昼食を摂り損ねていることに気づく。
患者を抱えた状態で付き添いもなく空室にするのはご法度。
腹加減を確かめるように白衣の上から胃を撫でる。
さして空腹は覚えないものの、カフェインで胃を満たすのは好ましくない。
先程振舞った菓子でも食べようと一番多く残っているフィナンシェを選んでデスクに戻り、小さく割って口に運ぶ。
天と地の逢瀬は激しく、グラウンドの土を抉る雨粒の口づけに止む気配は見えない。
所々に大きめの水溜りができていて、決壊すると土の凹凸に合わせて小川のように端に流れて行く。
小さな寝息が聞こえ始めたのを確認して、ミネラルウォーターのボトルと水で絞ったタオルを冷蔵庫から取り出してベッドへ。
第1ボタンまではめ直して眠る感冒患者の額にタオルを当てると薄目を開ける。
「首元緩めな、寝苦しくなる」
戸惑ったようにボタンに指をかけるのを見届けてデスクに戻る。
遅くまで勉強していてろくに寝ていないのだろうと起きるまで寝かせることを決め、来室者名簿を繰りながら来室データをエクセルに打ち込む。
怪我の多い科目に注意喚起をし、ひと月にどれほどの薬や衛生用品が必要なのか可視化するためだ。
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