むしろ好都合です

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 ダンジョンはどうしてこんなにも冒険者たちを魅了するのだろう。  マーシェスダンジョンが「レジャー施設」なのは地下3階まで。  そこから下は、進めば進むほどに難易度が上がり、現在最前線で攻略しているパーティーは最下層まで到達している。  冒険者は大きく二種類に分かれる。  冒険者を本業にしてそれを生業にしている者と、本業は別にあり趣味として冒険を楽しんでいる者だ。  もちろん、趣味が高じて本業に鞍替えしたという冒険者も多いし、冒険者を引退してからもダンジョンの魅力に囚われ続けて冒険者協会の一員になったり、街で商店を経営してダンジョンに携わり続けようとする者も多い。  ダンジョンでしか手に入らない希少価値の高いお宝や素材を求める者、純粋に魔物狩りを楽しむ者、誰よりも早く踏破することを目標にする名声を求める者、楽しみ方は人それぞれだ。  わたしの所属する攻略パーティーのリーダー、ロイさんもまた、自他ともに認める「ダンジョン沼にはまったダンジョン馬鹿」の一人だった。  ご本人は「俺はこれでも一応いいとこの坊ちゃんなんだぜ?」とか言っていたが、パーティーが拠点としている酒場の二階に入り浸って家に帰っている様子はなく、マーシェスダンジョンの最前線を突っ走るパーティーのリーダーとして「うらあっ!」だの「おりゃあぁぁっ!」だの雄たけびをあげながら毎日大剣を振り回し、どんな魔物でもなぎ倒していく最強の冒険者だった。  粗野で言葉遣いも乱暴で、短気で喧嘩っ早いところがあって、とてもじゃないけれど「いいとこの坊ちゃん」には見えなかった。    そんな人のどこにどう惹かれたのかわからないけれど、いつの間にか好きになっていた。  ずっとそばに居て、ずっと一緒に冒険したいと思っていた。  それなのに彼は、突然姿を消してしまった。
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