二重生活が始まりました

2/8

956人が本棚に入れています
本棚に追加
/170ページ
「奥様、本日のご予定はいかがなさいますか」  振り返ると、バトラースーツをカッチリと着こなす執事のハンスが無表情で立っている。 「図書室の観葉植物の植え替えをマックに手伝ってもらうことになっています。午後はいつも通りで、通常の執務の方はお任せします」 「かしこまりました」  軽く頭を下げたハンスは隙の無い身のこなしで去っていく。  彼は親子でマーシェス家に仕えていて、父親は王都の執事をしている。  領地の屋敷に常駐している使用人は執事が一名・メイド三名・料理人一名・庭師一名で、旦那様の家族が長期滞在したり特別な行事がある場合は王都の使用人が助っ人でやって来るほか、領民を臨時雇用して対応しているらしい。  結婚式の翌日に領地へ来たわたしだが、その日の朝食の席で「きみのことを頼むよう、向こうの執事にいいつけてあるから」と言われただけで、旦那様は送ってくださることはもちろんのこと、見送りすらしてくれなかった。  領地に到着して使用人全員に簡単な自己紹介をしてもらった後、執事のハンスに言われた。 「領地経営に関しましては旦那様のご命令より私に一任されておりますので、奥様を煩わせることはないと思います」  はいはい、つまり出しゃばって口出すんじゃねえぞって言いたいのね。 「もしも領民から直接奥様の方に何か要望があったとしても、その場で返事はなさらないようくれぐれもご注意ください。必ず私か旦那様に相談してみるとお答えください」  はいはい、何も知らん田舎者の小娘が安請け合いすんじゃねえぞって言いたいのね。  領地経営に口を出す気などさらさらないわたしは、ハンスの言いつけを全て了承した。  
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

956人が本棚に入れています
本棚に追加