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案内されたわたしの部屋は二階の廊下の奥で、日当たりの良いバルコニーからはマーシェスダンジョンの大樹が見えた。
ワードローブにはすでに服がぎっしりと下がっていて、ドレスのほかに普段使いのワンピース、ナイトウェア、それに侯爵夫人には似つかわしくないコットンシャツにカーゴパンツまである。
カーゴパンツはダンジョンへ行くにはうってつけの服ではあるけれど、なぜこれが…?
首を傾げていると、それに気づいたハンスが説明してくれた。
「旦那様のお言いつけで私が揃えました。奥様は土に親しむのがご趣味だと伺っておりますので作業のためのそういった服装もご用意いたしました」
土いじりが好きだと旦那様に言ったことがあったかしら。
まあ、なかったとしても釣書に趣味として書かれていたのかもしれない。
何にせよこれはありがたい!
「ありがとう。普段の身支度は一人でできるからメイドの手伝いは不要です。ドレスアップのときだけお願いします」
「かしこまりました」
次に、廊下の突き当りにある部屋へと案内された。
壁一面に立ち並ぶ棚にぎっしりと本が並ぶ圧巻の光景に息を呑んだ。
読書用のソファと窓際にはロッキングチェアもあり、観葉植物も置かれていてゆっくりくつろぎながら読書に没頭できそうな環境が整っている。
「読書も趣味であると伺っておりますので、この図書室はどうぞご自由にお使いください」
いやいや、そんな趣味はありません。
わたしはいつから読書家になったの!?
きっとこれも、正直に書いたら嫁の貰い手がないと踏んだ父が勝手に捏造したのだろうと思いながら、曖昧に頷いたのだった。
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