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「いやあ、ビアンカさんのヒールと、サブリーダーの足止めのおかげです。ありがとうございます」
戦闘はハットリが一人で行っていたものの、万が一を想定してビアンカさんがずっと回復魔法を詠唱し続けていたし、わたしはゾウの動きが鈍くなるように足元に泥の沼を発生させていたのだが、そのことにもちゃんと気づいていたらしい。
「ということで、パーティーの加入手続きは明日ね。わたし、そろそろ夕食の時間だから帰りますね!お疲れ様!」
「あら、わたしも開店の時間だわ。ハットリさん、急いで戻りますよ」
おっとりとした声とは裏腹に、ビアンカさんがものすごい速さで駆け出した。
「え?え?夕食?」
ハットリがビアンカさんの走っていった方向とわたしを見比べて戸惑っている。
わたしはすでに膝まで土の中に埋まった状態で、土から土への転移が始まっていた。
「わたし人妻なので夕食までに戻らないといけないの。じゃあまた明日」
ヒラヒラと手を振る。
転移が完了する直前に、「人妻!?」という間抜けな大声が聞こえた。
ハットリの加入で、士気の落ちたパーティーが活気づくといいのだけれど。
そんなことを考えているうちにマーシェス家の屋敷の図書室に到着し、ロッキングチェアに座る身代わりの土人形の肩に手を置いた。
「お疲れ様」
土人形は形を失ってただの土塊に戻る。
それを観葉植物の鉢に戻すとロッキングチェアに座って本を広げ、ゆらゆら揺れながらメイドの到着を待ったのだった。
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