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午後、いつものように土人形にお留守番を任せて観葉植物の鉢植えからパーティーの拠点であるビアンカさんの酒場の2階へ行くと、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
メンバーのエルさんとトールさん、そしてハットリがダンジョンの地図を広げながら歓談していたのだ。
エルさんは行方知れずのリーダーであるロイさんの右腕として長い間パーティーを牽引し続けた初期メンバーで、とても優秀な魔術師。トールさんは寡黙なマッチョで、斧を振り回すウォーリアーだ。
エルさんがプライベートで何者なのかはよく知らないけれど、振る舞いからするとかなり高貴な人なのかもしれないと思っている。
そしてエルさんにいつもくっついているトールさんは、その従者なのではないかと思っているのだが、プライベートの話をするのはタブーであるという風潮が我がパーティーにはあるため、心の中にそっとしまっている。
わたしもここでは「ヴィー」と名乗り、素性を明かしてはいない。
マーシェス侯爵夫人になったのだと言おうものなら、そのことが旦那様に伝わって面倒なことになるのは必至だ。
去年結婚を機にエルさんが一線を退いて、現在はボス戦などどうしても戦力が必要というとき以外はあまり姿を見せなくなり、エルさんに張り付いているトールさんも当然同じ行動であるため、二人に会うのは三か月ぶりぐらいだろうか。
ロイさんが来なくなった直後は何かと心配してくれて顔を出してくれていたけれど、わたしがロイさんの大剣と実質的なリーダーを引き受けてパーティーを立て直し、それが軌道に乗るとここへ来る頻度は減った。
単純にプライベートが忙しいだけなのかもしれないけれど。
「やあ、ヴィー。久しぶり。結婚したんだってね、おめでとう」
エルさんが笑顔を見せ、トールさんは無表情ではあるもののわたしに向かってこくこくと頷いている。
「ありがとうございます。おかげさまでわたしもお嫁に行くことができましたよ。エルさんとトールさんもお元気そうで何よりです」
この二年間、ダンジョンに潜り続けて泥まみれになり、魔物の血を浴びまくり、擦り傷切り傷は日常茶飯事で、何度「もうお嫁に行けない~!」と叫んだことか。
「よかったじゃないか。ヴィーのような可愛い妻を娶った男は果報者だね」
何をおっしゃいます!
旦那様とはあの黒歴史になるであろう初夜の翌日に本宅を追い出されて以来、かれこれ一か月お会いしてませんが?
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