借りてきた言葉

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太陽の塔を見上げながら歩いている。 芝生の香りが、地面の柔らかな熱を帯びた風に乗ってタクミの身体を吹き抜けていった。 もうすぐ夏が始まるのかと思うと、Tシャツが汗で身体に貼り付くのを想像してしまって、少しばかり憂鬱になってしまう。 タクミは、夏が嫌いだった。 日曜日の万博記念公園は穏やかで、まるで、今の瞬間だけは、この世界に不幸な人など、ひとりもいないんじゃないのかなと思えてしまう。 そんなことを思っても、冷静になると、ただ、自分が見たくないから、目を逸らしているだけだと気が付いてしまって、ため息が出る。 遠くから、子供らの笑い声が聞こえて来た。 「フリーマーケットか。」 「このワンピース、可愛いね。」 ママと女の子が話している。 日に焼けた片えくぼの女の子が、白地に赤い水玉のワンピースを、自分の体に合わせてみて、くるりとダンサーのようにターンをした。 ふわりとワンピースの裾が膨らむ。 それにしても、フリーマーケットなどで、古着を並べているお店も多いけど、あれは買う気にはなれないよね。 誰が着たものが知れないものを、よく着れるものだと、タクミは、いつも思う。 子供の服なら良いが、男性の服なんて、気持ち悪いじゃない。 ひょっとしたら、袖口や襟のところに、前に着ていた男性の汗とか皮膚片なんかが、繊維の奥に残っているかもしれないよ。 そこに、前に来ていた人のDNAがあるなんて考えたら、すぐにでも、脱ぎたくなっても不思議じゃない。 「あはは、やっぱり、僕は、潔癖症なのかな。」 フリーマーケットは、それぞれのグループと言うか出展者が、思い思いの物を持って来て売っている。 こんな日曜日は、そんなものを、ただ見て回るだけでも面白いなと、タクミは、新たな休日の楽しみを見つけて嬉しくなった。 「うん?これは何かな。」 どうみても、ガラクタと思われるようなものを、簡易なテーブルに乗せて売っているお店がある。 近づいて見てみると、ただの飲み終わった缶ビールの缶だ。 これも売り物なのか。 ジッと見ても、どう見たって、飲み終わった缶ビールの缶である。 しかも、値段を見ると、「3000円/1か月」と書いてある。 タクミが、不思議に思っているのが分かったのか、60才ぐらいの店の男性が、「うちは、レンタルショップなんですよ。それ、1ヶ月3000円でレンタルしてるんです。」 「レンタル、、、。これは、飲み終わった後のビールの缶ですよね。」 「ええ、そうですよ。」 「それが、3000円ですか。いや、その前に、売っているんじゃなくて、レンタルなんですよね。」 「ああ、そうですけど。」 「いや、ビールの缶って、その辺のコンビニで、300円も出したら、缶ビールが買えるじゃないですか。その中身を飲んじゃったら、これと同じものが手に入るんですよね。」 「ええ、そうですけど。」 「それで、わざわざ、これをレンタルしようという人が、いるという事なんですか。」 「ああ、いるよ。あなたの後ろに立っているじゃないですか。」 そう言われて、振り返ると、タクミの後ろに20才ぐらいの青年が立っていた。 「わっ。」 タクミは、声を出すぐらいに驚いた。 「すいません。熱心に話をされているようだったので、後で待っていたのです。」 そうタクミに言って、ペコリと頭を下げた。 「ジュンさん、やっぱり、僕には無理でした。これは、また今度、再挑戦します。」 青年は、古びたパンツを、店主に返した。 「なるほど、カズオ君も、ダメだったか。うん、まあ、仕方がない。」 「あの、君、カズオ君っていうのかな、それは、どう見ても、パンツに見えるんだが、しかも、使い古したパンツに。」 「ええ、これは、ジュンさんのおばあさんが生前に履いてらっしゃったパンツです。」 「パンツですって、、、君。それって、変じゃないか。だって、おばあさんのパンツって言っても、女性の下着じゃないか。それを、レンタルしてたんだよね。それって、気を付けないと、変態だって思われるよ。」 「はあ。僕は、変態じゃないです。ただ、このパンツを、どうやったら、活かすことができるのかって、必死になって考えていたんです。」 「必死になってって、、、。」 「ええ、頬ずりをしたり、夜は、抱いて寝たりしました。」 「頬ずり?抱いて寝る?だから、それは、変態だって言うの。」 そうタクミが言った後に、店主が、カズオ君に言った。 「それは、正しい方法だ。まず、悩んだら、それを抱いて寝ろというのが、イメージを発展させる方法だからね。」 店主と、カズオ君が、意気投合しているのを見て、タクミのテンションが、正常に戻った。 「それで、君は、そのおばあちゃんのパンツで、何かを掴むことを出来たのですか。」 「いえ、それが、力不足で出来ませんでした。このパンツを解いたらとも思ったんです。そうしたら、糸になりますよね。糸にさえなれば、色んな形に変えることもできる。さらに、その糸をバラバラにしたら、どうなるのか。いっそのこと、この形のまま、何かできないものでしょうか。こうやって、頭にかぶって。」 と言って、カズオ君は、店主に返したおばあちゃんのパンツを、また貰って頭にかぶってみせた。 「だから、ダメだって。それじゃ、変態以外の何物でもないよ。ほら、周りの人が、君を見てるじゃないか。」 シュンとなったカズオ君に、ジュンさんは、励ますように言う。 「気にするな。新しいものに挑戦する者は、常に孤独なんだ。」 カズオ君は、無言でうなずいた。 「あれ、このビールの缶。これ3000円なんですね。面白そうですね。」 カズオ君が話を変えた。 「今度は、それに挑戦してみないか。おばあちゃんのパンツよりも、イメージしやすいかもしれないよ。」 店主が、まるで、カズオ君の師匠のような素振りで言った。 「君、このビールの缶って、300円もしないものだよ。それに、3000円払う価値があると思っているのかい。」 タクミには、まだ、この店のシステムというか、価値を見出すことが出来ずにいた。 「ええ、知ってますよ。僕は、きっと、このビールの缶に3000円以上の価値があると考えてます。じゃ、あなたは、このビールの缶は、無価値だと思ってられるのですか。」 「無価値とは思ってないけど、、、、。」 「じゃ、いくらぐらいの価値ですか。」 「うーん。10円とか、いや、50円ぐらいなのかな。」 「じゃ、それで良いです。」 カズオ君は、冷静な声で返事をした。 「いや、待って。その言い方は、傷つくなあ。何か、私の想像力がないみたいじゃないか。」 「いえ、そういう意味じゃなくて。物には、価値があるけれども、その価値の大小は、その人によって違いますから。このビールの缶を見て、無価値だと思う人もいるでしょうし、100万円の価値を見つけられる人もいるという訳です。でも、そのどっちも正解なんだと思うんですよね。ほら、あそこに、小さな黄色い花が咲いているでしょ。あの花の価値もそうですよ。あの花を見て、ただの雑草だと思って引っこ抜いちゃう人もいると思うんですね。でも、ある人は、あの花を見て、美しいと思って絵にかこうという衝動を起こす人もいるかもしれない。もっというなら、あの花の花びらに、すごい成分が存在していて、それがガンとか、心臓病の薬になることを発見するとか。でも、どれも正解なんですよね。だから、このおばあちゃんのパンツだって、人の役に立つのかもしれないと思うんですよね。ただ、僕が発見出来ていないだけ。」 そう言いながら、カズオ君は、おばあちゃんのパンツを鼻に当てて、くんくんと匂いを嗅いだ。 「分かった。分った。どうも、君の言いたいことは分かるような気がする。でも、その前に、おばあちゃんのパンツの匂いを嗅ぐのは止めなさい。」 「はあ。」 「はあ、じゃない。ほら、みんなが見てるちゅうの。変態だと思われてもいいのかね。すぐに、パンツを店主に返しなさい。」 カズオ君は、仕方なく、店主にパンツを返した。 「孤独やな。」 店主が、ポツリと呟いた。 「そうだ。あの言葉のレンタルは、どうですか。」 「ああ、ぼちぼちやな。」 テーブルの端には、紫外線で色あせたクリアファイルが置いてある。 「あれは、何なんですか。」 タクミは聞いた。 「あれは、10年ぐらい前に始めたんだけど、言葉のレンタルやな。」 「言葉のレンタル。」 ファイルを手にとって見ると、1ページに、1つの言葉と、値段がマジックで書かれている。 なるほど、この言葉をレンタルするのかとタクミは思ったが、そんな必要があるのかと、これまた、理解が出来ないでいた。 「あのう。この言葉って、別にレンタルしなくても、普通にタダで、口から言えるじゃないですか。それを、わざわざレンタルする人がいるのですか。」 「ああ、いるよ。あなたの後ろにいるじゃないですか。」 振り返ると、40才ぐらいの美人がいた。 「わっ。」と声に出して、また驚いてしまった。 「すいません。あまり熱心に、お話をされてるものでしたから。それじゃ、ジュンさん、この言葉をお返しします。」そう言って、A4のコピー用紙を店主に返した。 見ると、「もう1度やりなおしましょう。」とマジックで書かれていた。 「あのう、ちょっとお聞きしたいのですが、あなたは、この言葉を、いくらでレンタルされたんですか。というか、こんな言葉だったら、レンタルしなくても、自分で言えるでしょ。」 「5000円です。実は、あたし、主人が、ずっと浮気をしていたんです。まあ、浮気は、すぐに終ったんですけど。でも、その後も、主人の事が許せない気持ちが、ずっと心の中にあって。でも、子供もいるし、別れたくは無かったんですね。自分のこころの底に、許せない気持ちが残っているので、もう1度やり直しましょうなんて、言えなかったんです。だから、ジュンさんから、レンタルして家に帰ったんです。」 「そうですか。でも、わざわざレンタルしなくても。」 「だから、ダメなんです。あたしが言おうと思っているその言葉は、本心じゃないから。気持ち的にも言いたくなかったんです。でも、レンタルした言葉なら、それは、あたしの言葉じゃない。ただ、借りて来ただけの言葉だから、気持ちの引っかかりも無く言えちゃうんです。」 「なるほど。」 妙に納得した気持ちになった。 人間、生きていると、言いたくないけれど、言わなきゃいけない言葉がある。 そして、言いたいけれど、言えない言葉もある。 言葉とは、難しいものだ。 「そうだ。折角来たんだから、この『ありがとう。』もレンタルしちゃおうかな。」 「『ありがとう。』も、レンタルしなきゃいけないんですか。」 「ええ、だって、まだ主人には、『ありがとう。』なんて、言いたくないもの。」 その会話を聞いて、横にいたカズオ君が言った。 「浮気をしたら、怖いことになるんですね。」 それを聞いて美人は、「そうよ。あなたも気を付けなさいね。」と、ニヤリと笑って見せた。 「あれ、『愛してる。』もあるのね。でも、ありがとうが、1000円で、愛してるが、1万円って、なんで、差があるの。」 「ああ、それね。だって、ありがとうっていう言葉は、美しくないからね。」 「美しくない。」 「ありがとうっていう言葉は、まずもって、何か良いことがあるから、ありがとうっていう言葉が発せられるわけだ。何かしてもらったから、或いは、今、良い状態にあるから、それに感謝して、ありがとうっていう言葉を発する。詰まりは、条件が必要なんだな。でも、愛してるって言葉は、その条件が無いわけだ。たとえ、ナイフを首に押し当てられても、彼女の事が好きだったら、今殺されそうな瞬間でも、愛してるっていう事ができるでしょ。詰まりは、無条件や。無条件な言葉ほど、美しいものはないと思う訳なんだ。」 「無条件の愛。きゃー、素敵。」 美人が、小さな拍手をする仕草をした。 すると、何かに気が付いたように店主が言った。 「無条件の愛、、、ええなあ。そういえば、わたしも、愛してるなんて言葉を言ってもらったことないな。はあ、悲しいなあ。一生に1回は言われてみたいなあ。あなた、物は相談だが、わたしに愛してるって言ってはくれないか。勿論、1万円払いますから。」 「嫌ですよ。気持ち悪いし。それに、男の人に言われても、あなたも嫌でしょう。」 「そうやな。どうせ言われるなら、やっぱり女の人が、ええわな。なあ、ケイコちゃん、あなた、わたしに、愛してるって言ってくれないかな。1万円、いや、1万2千円払うから。」 「えーっ、あたしで良いんですか。じゃ、今度、また言いますね。」 「うまいこと、かわしましたね。」 カズオ君が、吹き出しそうになって、呟いた。 そんな会話をしていると、タクミは、ファイルに、意味のない言葉があることに気が付いた。 「あのう、この『鼻の下、風に吹かれて、ピロ、ピロ、ピローン。』って、これ何なんですか。」 「ああ、それか。それは、芸人向けに書いた言葉っていうか、ギャグなんだけど。」 「ギャグですか。」 「大阪は、芸人が多いから、ひょっとしたらレンタルする芸人いてるんじゃないかと思ってね。値段のところ、『出世払い』って書いてあるでしょ。そのギャグで売れたら、売れた度合いによって、ガッポガッポお金がもらえるっていう仕組みですわ。」 「それじゃ、この『ジマナカ』っていうのは、どういう意味なんですか。」 「それですよ、それなんです。」 店主は、よく聞いてくれたとばかりに、身を乗り出して、タクミに説明しだした。 「その『ジマナカ』っていう言葉ね。それには、まったくもって、意味が無いんですよ。無意味な文字の羅列でしかないんです。だから、美しいんですよね。無限の可能性がある言葉なんですよ。」 その説明を聞いていたカズオ君は、急に、目がキラキラと輝きだした。 「でも、いつ、どうやって、使うのですか。」 「さあ。」 「さあ、って。ヒント下さいよ。」 「そうだな、もし天文学者が、この言葉をレンタルするよね、そうしたら、新しい星を見つけたときに、ジマナカ星と名付けてもいいじゃない。いや、それではイメージが貧弱すぎるな。もっと、クリエイティブな使い方が出来る筈だよ。例えば、ここに表現者がいたとする。それは、芸術家でも良いし、文学者でも良い。そこで何か、心の中からの叫びというか、今までの言葉では説明の出来ない感情や、イメージが浮かんだとする。でも、既存の言葉では、それを伝えることが出来ないんだ。そこで、新しい、感情やイメージを表現する言葉として、この『ジマナカ』という言葉を遣ってもいいんじゃないかと思うんだ。愛してるけど憎んでいる、そして、熱いけれども、冷たい、抱きしめたいけど、殺したい。そんな、今までの語彙では表現できなかった複雑なものを、この『ジマナカ』という言葉に託してみるのも面白いと思わないかな。世界中の人が、そんな複雑な感情やイメージを、『ジマナカ』という言葉で表現出来たら、美しいと思うんだけどなあ。」 「素晴らしいです。」 カズオ君は、鼻息も荒く、興奮状態だ。 「そういうもんですかね。」 タクミは、納得がいったような、いかなかったような、宙に浮いたような感じで、店主の話を聞いていた。 「じゃ、僕、その『ジマナカ』をレンタルします。それと、ビールの缶と下さい。」 カズオ君は、かなり興奮して、店主に、ジマナカのレンタル料の1万円と、ビールの缶のレンタル料の3000円を払った。 美人のケイコさんは、「それじゃ、今日は、もう帰ります。あ、そうだ。今度来た時に、『愛してる。』をレンタルしますね。」 そう言って、ペコリと頭を下げた。 それから、1年ほど経った時だ。 テレビを点けると、見覚えのある青年が出ている。 「えー、本日は、20代にして、ジマナカ産業という会社を立ち上げた綾小路さんにご出演していただいております。」 司会者が、青年を紹介した。 「ジマナカ、、、ん?聞いたことがあるような。それに、この青年。そうだ、あの時の青年だ。」 タクミは、カズオ君の事を思いだした。 ジマナカという言葉をレンタルして、会社の名前にしたんだね。 凄いじゃないか。 テレビの中の青年は、自社の商品の説明を始めた。 「この缶ビールの缶は、こうやって、ビールを飲んだ後に、また瓶のビールを入れるような仕組みになっているんです。ほら、こうやって、缶ビールのビールを飲んだら、この飲み口から、瓶ビールのビールを注ぐんですね。そして、このプルトップの蓋を、こうパチリと閉めると、ほら、また缶ビールが再生されたという訳です。これがエコな缶ビールなのです。それでもって、こちらの商品は、おばあちゃんが履いているようなパンツに見えますが、これは実は、虫よけになっているんです、これを玄関のドアに吊っておくと、周囲10メートルは、その匂いで虫が寄ってこないんです。」 カズオ君は、意気揚々と話をしている。 司会者は、A4のコピー用紙を見ながら、「それは、素晴らしい商品ですね。」と答えている。 いや、カズオ君、素晴らしいよ。 自分で、会社を立ち上げたんだね。 でも、ダメだ、ダメだ、そんな商品、売れる訳ないじゃないか。 大丈夫かな。 タクミは、青年の起業を祝うとともに、これからの売れ行きを心配もした。 ふと、青年の横を見ると、見覚えのある美人が座っている。 ああ、あの美人だと気が付いた。 「それで、副社長さんは、奥さんなんですってね。年の差結婚だとお伺いしているのですが、ラブラブの秘訣は何なんですか。」 「はい。本当の言葉で伝えることでしょうか。借りて来た言葉じゃなくてね。」 そう言うと、美人の奥さんが、「そうなんです。わたしも、プロポーズされたとき、思わず、こんなおばちゃんで良いのって聞きましたよ。バツイチで子持ちやから、お金かかるよーってね。自分の言葉で聞いたんです。」と笑顔で話している。 「あはは。こんなこと言ってますけど、美人でしょ。だからひと目ぼれですよ。でも、年取ったら、僕が介護しなきゃ行けないし、それは大変だけど、まあ、そこは我慢するわってね。そう言いましたよ。」 すると、司会者は、あたふたして、その言葉に反応が出来ないでいる。 そして、床に落ちていたA4のコピーを拾って、それを見て、「素敵なお話ですね。」と笑顔で返した。 その時、タクミは、おかしなことに気が付いた。 変だよ。 そう思って、チャンネルを回すと、どこの誰もが、何かを発言するときに、A4のコピー用紙を持って喋っている。 まさか、これって、レンタルした言葉じゃないのか。 そんなバカな。 知らない間に、日本中にレンタルした言葉ばかりが流れているよ。 タクミは、急いでカズオ君の電話番号を調べて、連絡をした。 「ああ、フリーマーケットにいらっしゃった方ですね。」 「そうだよ。あのさ、あの商品、絶対に売れないから、今すぐ止めた方が良いよ。」 タクミは、カズオ君の事が心配で、親切心で言った。 「やっぱり、そう思いますか。でも、みんな売れるって言うので、、、。」 かなり落ち込んだ様子で、電話の向こうで、何か話していると思ったら、美人の奥さんが出た。 「あのねえ。そんなこと、みんな解ってるのよ。どうして、本当の言葉を遣うのよ。あたしの主人に何を言うのよ。あんたなんか、死んじゃえ。」 そう言って、ガチャリと電話が切れた。 そして、タクミは、悲しくなった。 レンタルしてない言葉を遣った3人が、傷ついてしまった。 テレビからCMが流れている。 「あなたも、ネットでポチリと、レンタル言葉。今は、言葉をネットで買う時代だよ。」 あのフリーマーケットの店主だった。 その後ろで、調子のよい音楽に合わせて、「ジマナカ、ジマナカ」と歌いながら、ミニスカートの女の子が踊っていた。 タクミは、ネットで、「さっきは、ごめん。」という言葉を、ポチリとやった。
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