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「なあ、父ちゃん、どっか遊びに連れてって」
土曜の昼、学校から帰ると父ちゃんがリビングでゴロンゴロンしてた。(なんと、まだこの頃は土曜日もお昼まで学校があったんです。大変やってんで昔は。今は土曜休みでええな)
わいはランドセルを下ろすと父ちゃんの横のソファにダイブする。
「ウオッ」と父ちゃんは飛び退きながら
「なんや、今日は友達と遊ばんのか?」と言ってきた。
というのも、いつもならお昼食べると、すぐ外に飛び出して遊びに行っていたからや。でも……
「ゆたやんはサッカークラブ、健ちゃんも野球部入ってもうた。二人とも試合が近いから、今日も明日もクラブやって」
「まだ2年生やのに大変やな」
「だから、どっか連れてってー」
父ちゃんはゆっくり体を起こすと、テーブルの上の缶ビールを取ってゴクゴク飲んだ。
「あー、もう飲んでんの?」
「今日はオフや」
ガックリや、ショボン( ´Д`)。だって父ちゃんこの茶色いシュワシュワ飲んだらあんま動かんようになってまうんや。ゴロゴロゴロゴロ、ナマケモんのカンガルーになってまう。なんでこんなもん飲むねん? わいちょっと泡なめてみた事あんねんけど。信じられへん味がした。ありえへん。大人ってアホやろ。わいは憎しみを持ってビールの缶を睨みつけた。
「まあ、そんなガックリすな。そやなー。よし! ほな明日はみんなで山でも登りに行こか」
「え、ホンマ!」
「六甲山に行こう」
「やったー」٩( ᐛ )و
六甲山はうちから手軽に行けるという事もあって、小さい頃から何度も行っていた。阪急電車に乗って『芦屋川駅』で降りる。川沿いに住宅街の道を抜けてちょっと登って行くと高座の滝という所があって、その上にロックガーデンと呼ばれる岩がゴツゴツした登山道があるんや。鎖持って登るところもあって、冒険してるみたいでワクワクすんねん。
姉ちゃんが帰ってきた。
「どないしたん?」
「父ちゃんが明日六甲山連れてってくれるって」
「えー、またーー」
「ええやん。わい。大好きやで山登り。冒険や!」
「冒険って……」
「六甲山はわいにまかせてくれ。何度も登ってるから全部分かんで」
「なっちゃん、高座の滝の上にあるロックガーデンのところまでしか行ってへんやん」
「そうや。何度も何度もロックガーデン行ってるで。保育園の頃から登ってるからな」
「登ってるって…… あそこ、登山道の入り口やで、あそこの後からが普通の登山開始やで」
「えっ?」
「六甲山ってロックガーデンだけちゃうで。高座の滝なんて入り口の入り口やかんね」
「そうなん?」
わいは父ちゃんを見た。
「まあ、そうやな」
ビールをグビグビ飲みながら父ちゃんが答えた。
わい、六甲山って高座の滝とロックガーデンの事やと思とった。そして、ロックガーデン登った後は、戻ってきて高座の滝にある小さな茶屋でおでん食べるねん。おでんがうまい! そしてじっちゃんと父ちゃんはビールを飲んで…… それが登山やと思とった。
姉ちゃんがランドセル置いて戻ってくる。
「わたし、去年の遠足で風吹岩とおって、東おたふく山まで登らされたよ。六甲山の途中ぐらいやけど、結構足痛くなったん覚えてるわ。かなり歩いたね。だから、あんなロックガーデンぐらいで登山行ったなんて言わんとって。恥ずかしい」
「……ガーーン!」
「ショック?」
『風吹岩?』なんや、その冒険に出てきそうな場所。それにロックガーデンってまだ入り口の入り口やったんか。ほな、本当の冒険はこれからやん。もう冒険を極めたつもりでおったのに。これからやんけ。
……ワクワクしてきた。ドキドキしてきた。
「わいも行きたい!! 風吹岩」
「ただのでっかい岩やで。大した事ないわ。あーー、憂鬱。来年、6年生の遠足は、あれよりもっといっぱい歩いて六甲山の頂上まで行くねんで。嫌やわー」
「行こう行こう、明日はもっと上まで行こう。頂上まで行こうぜ」
「あほか」
母ちゃんがテーブルを布巾で拭きながら聞いてきた。
「何? どこ行きたいん?」
「六甲山。ロックガーデンの上に行ってみたい」
「山登りすんの?」
「そや」
「ちゃんと歩けんの?」
「あたりまえやん。わい、走ってでもいけんで」
姉ちゃんが大きくかぶりをふる。
「えー、私嫌やー。だって疲れるもん。なんで山なんて行かなあかんの」
父ちゃんがビールの缶を高らかに持ち上げる。
「どうしてそこに行くのか? それは、そこに山があるからや」
と言ってはグビっとビールを飲んだ。
「ビールはなしよ」と母ちゃんが間髪入れずに言う。
「えっ」
「ちゃんとした登山するなら明日はビールなし」
「えええっ!!」( ゚д゚)
「だっていつもは茶屋までで帰ってくるけど、今回はもうちょっと登るんでしょ。登山にビールはダメ!!」(`ω´ )o
父ちゃんは言葉を探してオロオロした後、「よし、じゃ明日は山登りじゃなくて茶屋めぐりにしよ。高座の滝が目的地。そう、どうしてそこに行くのか、それはそこにおでんとビールがあるからや」(-。-;
とゴニョゴニョと言った。
「えー!」 父ちゃん……
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