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「あら、そろそろ時間ね。ユリスまでしばらく会えなくなるの、とても寂しいわ。今からでも、隣の学園にしない?」
そういった母は大きな瞳に涙を浮かべる。
我が公爵家、というかローラン公爵家は隣国に一番近いところに位置する。公爵領から行くのに1週間と3日は要する王都のシャルレ寄宿学校より、5日でつく隣国の学園の方が近いのだ。実際、ここ、王都の公爵家別邸には入学1ヶ月前から来ていて、今日やっと入学式である。
女性が泣いていたら、全力で慰めるのが紳士だという我が家ならではの教育を受けてきた俺はオロオロする。でも、今更行かないと言う訳にもいかないし…。
「私の太陽。ユリスが決めたことなんだ、泣かないで送ってあげよう。」
母上によってされるがままになっていたら、奥からキザったらしいセリフを言う父上がやってきた。
普通ならば、気持ち悪いと感じてしまうだろうセリフも、イケメンが言うならばかっこいいと感じてしまうあら不思議。
イケメンはイケメンでも、父上は冷たい雰囲気を感じさせるイケメンだ。つり上がった目に、色の薄い銀の髪、氷のような、と形容される瞳は鋭利な輝きをもっている。
その瞳が母上や俺たちの前でだけ甘く蕩けてしまうのは、少し残念だ。
「、はい、旦那様…。」
しょぼんとした母上は涙を拭って笑顔を浮かべる。ぎこちないながらも、門出を祝ってくれる。
「ユリス様、そろそろ。」
痺れを切らした御者から、タイムリミットを告げられ、名残惜しいながらも親愛のハグをして別れる。
どんどん小さくなっていく、公爵家別邸に胸がずきりと痛むも、せきに座り直し、前を向く。
隣国の学園に行かなかった理由、姉の破滅を止めるため、計画を練り直さなければ。
◇◇◇
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