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6
歩道橋の階段の一番上の端っこに腰を下ろしたまま、健太は夕日を見つめ続けた。
夕日に家族の姿が映し出された。まるい窓の向こうを覗き込むように、中の様子をうかがう。皆、幸せな表情を浮かべながら、メロンを頬張っていた。あの日の幸福な気分が健太の胸に蘇る。
家族一人ひとりの顔が、丸窓から覗いた。
父の顔。
母の顔。
最後に、歩美の顔が笑った。
──もう、あの日は、二度と帰らない。
──家族とかけがえのない時を過ごした、あの日は……
去年の秋、歩美を嫁がせた。
思慮深く優しい女性に成長を遂げた妹は、幸福な家庭を築いてくれることだろう。
「これで、一区切りがついた……」
健太の張りつめた肩の荷は下り、安堵したとたん、郷愁が胸を襲った。居ても立ってもいられなくなり、正月休みを利用しての帰郷なのだ。
両親とも既にこの世を去った。墓前で歩美の結婚報告をしたのち、ふらふらと商店街を彷徨い歩きながら、足は自ずと歩道橋に向いていた。兄妹二人きりで、世間の荒波に小舟を漕ぎ出して以来、手と手を携え、紆余曲折を経てようやくここまで辿り着いた。
二人して歩んで来た道のりに思いを馳せつつ、夕日を見つめた。
急に北風が強まり、コートの襟を立て顔を埋める。が、煌々と燃え立つ夕日は、健太をいつまでもあたたかく照らすのだった。
「歩美、幸せになるんだよ」
〈了〉
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