4

1/1
前へ
/6ページ
次へ

4

「くさったメロンくださーい!」  健太は前のめりになる。  店主も、その場に居合わせた数人の客も、あまりの大音量と意外な言葉に、一斉に健太の方を向いた。 「えっ! 坊や。腐った……?」 「そうだよ。くさったヤツだよ!」  得意げに胸を張る。店内から客の笑い声が漏れてくる。が、なぜ自分の方を見て皆笑っているのか分からない。 「坊や、うちはね、腐ったメロンなんて置いてないんだよ」  店主は笑いながら健太の傍へ歩み寄ると、中腰で健太の目線になった。「ねえ、どうして腐ったメロンなの?」 「コレ!」  健太は茶色に変色したバナナのひと盛りを指差した。「このバナナくさってるでしょ。だから、まっきいろのバナナよりやすいじゃないか。だから……」 「ああ、そういうことか。ねえ、坊や。これはね、腐ってるわけじゃないんだよ」 「これ、くさってないの?」 「そうだよ。腐ったものはお店には置かないんだよ。食べられないからね」  店主の顔を見つめながらいっとき考えると、鮮魚店を指差した。 「くさってもタイって言ってたよ。ウソなの?」 「参ったなあ……」  店主は帽子を脱いで頭を掻き掻き、笑いながらしかめっ面をする。  その様子に、いけないことを言ってしまったのだろうか、と健太の胸は痛んだ。 「じゃあ……くさったメロンも……ないの?」 「そうなんだ。そんなメロンもないんだよ。それにね、うちは季節の果物しか置かないから、もうメロンは……来年にならないと……ないんだよ」 「えっ! メロンはないの?」 「ごめんね」  店主は健太の頭を優しく撫でてくれた。 「ちょっとご主人、いいかしら?」  店の奥から、甲高い女性客の声が健太の耳に飛び込んだ。 「はい、ただいま!」  店主は威勢のいい返事をすると、その客の方へと小走りに、健太の目の前から消えてしまった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加