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 健太はズボンの右ポケットの中に手を突っ込むと、数枚の百円硬貨を握り締めた。仕方なくその場を離れ、うな垂れ気味に歩き出した。  しばらく行くと、歩道橋に差しかかった。手すりにつかまり階段を見上げる。フウッと一息ついてから、一段ずつ踏み締めながらゆっくりと上り始める。  やっとの思いで一番上まで来ると、人の邪魔にならないように端っこに腰を下ろした。両肘を膝の上に乗せ、両手で頬杖を突いた。  ふと階下を見た。見知らぬおばさんが上って来る。健太の横で一旦立ち止まると、笑いかけてきた。 「あら。ぼく、どうしたの?」  健太はおばさんの顔を上目遣いに見ると、さも大袈裟に溜息をついて見せた。 「まあ、可愛いわね、フフフ……」  おばさんはとても楽しそうな顔で、この頭を撫でてくれながら去ってしまった。  健太は頬杖を突いたまま、真っすぐ正面を向いて遠くの山を見据えた。  夕日が山の稜線を掠め、まさに沈もうとしている。赤々と燃え立つ落日を健太は息を呑んで見送っていた。  丸くて真っ赤で、頬張れば甘そうな夕日に目は釘づけになる。  そして、もう一度だけ、大きく溜息をつくのだった。
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