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健太は身震いした。北風が思いの外冷たかった。
夕方の商店街に来ると、健太はいつも興奮してしまう。それぞれの店先から漏れる威勢のいい声も、次第に買い物客で賑わう様も、たまらなく面白かった。いつしか寒さすら忘れていた。
健太は三歳、といっても、あとひと月足らずで四歳の誕生日を迎えることになる。
このところ夕方になると、商店街の果物店の店先に陣取って、店内を覗き込むのが日課になっていた。いつもは、ひと通り陳列棚の果物を遠巻きにざっと見渡すと、直ぐに帰ってしまう。だが、大晦日の今日は、おばさんたちの巨大なお尻に揉みくちゃに押し潰されそうになりながらも、その場に踏ん張り続け、一点だけを見つめた。
──メロンがない!
いつもの場所にないのだ。
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