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「ママはあの時、ステロイドを、パパに打ったんだ」
父親は、無数の管に繋がれながらも眠り続ける娘にそっと語りかけ、その小さな頭を撫でた。
21XX年。人類はパンドラの箱をもう一度開けた。
とある女性科学者が開発した“寿命を伸ばす薬”は、瞬く間に世界中で論争を巻き起こした。
「“ライフステロイド"は倫理上、到底受け入れられるものではない!」
「あの薬こそが本当の救いだ!」
「第三次世界大戦後の、原爆症に苦しむ患者が世界中で多い中、尊厳死の観点から認めるべきだろう」
「国家レベルで悪用される危険性を考えるべきだ」
「“素材”となる人間の、自殺幇助とも言えるのでは?」
「“寿命を伸ばす事”は“文明の発展”に直結するだろう。素材の“寿命を奪うこと”に目を瞑れば。」
…
世界中が神の薬「ライフステロイド」の是非を問うている中、数発の銃弾が世界を再度混乱に陥れた。
ライフステロイド女性開発者、襲撃さるー
ーー大手製薬会社が関与か
事件後、当然のように世界中でステロイドの反対運動が激化した。宗教上の理由で忌避していた宗教団体などの反対派が勢いを強めたのだ。
【Devil is dead!(悪魔は死んだ!)
NEXT LIFE STEROID TOO!(次はステロイドもだ!)】
連日、特にキリスト教圏での反対運動は過激を極め、デモ隊と警察との衝突で多数の死者を出した。
ーーー男は続ける。
「ママはあの時、何の迷いもなくバッグから注射器を出し、自分に刺したんだ。」
そういいながら男は、注射器を取り出した。
「お前のママは悪魔なんかじゃない。優しい人だった。本当は病気のお前を助けたい一心で、この薬を開発したんだ。」
男は自分の腕に薬を注入し、そして静脈から血を抜いた。
「ママは一緒に撃たれたパパを助ける為に、その命をくれたんだ。だからパパは、代わりにママの夢を叶えなければならない。」
「だからこの血は、この薬は、ママとパパからの、最後の贈り物だよ。」
“素材”は自分の娘へ薬を注射した後、娘を抱き抱えながらゆっくりと俯き、目を閉じた。
すれ違うかのように、
娘は、ゆっくりと目を開けた。
「ステロイド」
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