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名古屋駅にて
あの女性の名は、能鳥カヲルといった。
「私の方が先輩だね、廉くん」
ひとつ年上のカヲルさんは、俺と同じ力を持つ能力者だった。しかも体を貸し出す仕事を2年前からやっていたそうだ。新幹線によく乗り合わせるのも、当然だった。
「どうやって気絶させたんですか?」
「魂をひょい、と引き出しただけだよ」
カヲルさんは、「廉くんはまだ、未熟者だね」と笑った。
その後、俺たちは名古屋駅で新幹線を降ろされた。警察の事情聴取が終わったところにワンダ氏が駆けつけて、あれこれ面倒を見てくれた。
「やけに情報が早いですね」
「先生が自分の体に戻ってすぐに連絡してくださったので」
思わず苦笑した。さすが先生、危機管理はバッチリだ。
「ところで、樽一さん。お願いがあります」
「何ですか、あらたまって。レンタルマンなら続けますよ」
ワンダ氏は両手を広げて、「いやいや、それはそれで嬉しいですが」と首を傾げた。
「今回の体験、お話にしてみませんか?」
誰でも一冊は本が出せるという。自分の人生を書けばいいのだと。ならば何人かの作家に体を貸した俺は、その数だけ物語が書けてもいいはずだ。
「考えておきます。でも、レンタルマンには執筆の時間がないかな」
思わず目元が緩んだ。どうやらワンダ氏やカヲルさん、作家の先生方とのご縁は、もうしばらく続きそうだ。
(了)
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