10 プレゼント【やぎ座】

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10 プレゼント【やぎ座】

 妹の美月(みつき)が失恋した。同じアルバイト先の仲間に。  美月は居酒屋で働いていて、週一ペースでお客として通っている私も、片想いの相手・柚那(ゆな)くんを知っている。  たしかにカッコいいとは思う。生まれた性に違和感を持ち、男性として真摯に生きようとする姿もまぶしい。  だけど美月じゃない子を選ぶなんて、センスがないと思う。    占い師になりたい美月は、失恋後、それまで以上に占星術に熱心になった。  私を占うことも多くなった。 「お姉ちゃん、恋愛運上昇してるっぽいよ。今月の誕生日に、彼から何かもらえるんじゃない?」  そんなことを言っていた。  とにかく明るくて、やさしい子なのだ。  私の片想いの相手は、誰にも、美月にも打ち明けていない。美月のアルバイト先の店長さんだ。  私より三歳年上の三十五歳、もちろん独身。笑うと目がなくなるようなところがかわいい。そのくせ頼れる感じの人で、肩幅が大きくて声もいい。  ついでにいえば、店長さんの居酒屋でアルバイトをしている、歌手でもある妹ちゃんもかわいい。  お店に行くと私のことを、店長さんは〝まなちゃん〟と呼んでくれる。  それを聞いて、嫉妬するアルバイト女性がいることに私は気づいている。  なんというか、昔から敏感なのだ。私は人との関係性に敏感すぎて、輪に入ることに疲れてしまうのだ。  だけど店長さんは、真面目になりすぎて身構えて、一歩引いてしまう私を、あのやさしい眼差しで見てくれる。「まなちゃん、もっと肩の力抜いて飲んだら?」、そんなことを言ってくれる。  それが営業トークでもなんでも、うれしいのだ。だから今夜もこうして、店長さんのお店のカウンター席でワインを飲んでいる。 「真奈果(まなか)さん、こんばんは。お隣、いいですか?」  声をかけられて、我に返る。常連客の女の子・みっちゃんだ。  私は「もちろん」と、椅子を勧める。座った彼女はちょうどカウンターの中にいた、アルバイトのりつくんに、生ビールを注文した。  ちなみに、りつくんは、みっちゃんの彼氏だ。 「カンパーイ!」  私たちはグラスを掲げ、それぞれのお酒を口にした。一気に6口は飲んだと思われるみっちゃんが、「ぷはーっ」というお決まりのリアクションをしたあとで、「そうだ、これ」と、私に一枚の白い紙を差しだす。 「明日、真奈果さんお誕生日でしょ? おめでとうございます。これ、私からのプレゼント!」  広げると、それは印刷されたQRコードだった。 「なあに、これ」 「ある人のLINE。しょうがないから私がキューピッドになってあげようかなあって」 「ある人?」 「連絡してみればわかるから!」  みっちゃんは満面の笑みで、それについては口を閉ざした。    私たちは互いの仕事の愚痴をこぼし、飲み、食べた。ときどき店長さんをこっそり見ては、目であいさつを交わした。    そうして帰宅後、恐る恐る例の紙を広げ、スマートフォンで読み取ってみる。  店長さんの名前が出た。  まさか……いや、もしかして、とも思ってはいた。ほんとうに店長さんだ。  やだ、みっちゃん、なんで。    LINEを打ったものの、仕事中の店長さんから返事はなく、待ちくたびれて眠ってしまった。    深夜、枕もとで返信を受け取ったことに、私は朝まで気がつかない。    まなちゃん、連絡ありがとう。  お店ではちゃんと話せなくて、ごめんなさい。  日付が変わったから、今日が誕生日だよね。  おめでとう! 近いうちに、会えませんか?  よかったら、ふたりで。                             了
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