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6 特別な日【おとめ座】
先月の終戦の日は、夫の誕生日だった。今月は息子の誕生日がある。
おとめ座の大学3年生。晴輝という名は、夫がつけてくれた。
都内でひとり暮らしをしていて、サークルだのアルバイトだのに忙しく、この家にはめったに顔を出さない。
去年の秋の、夫の会社の人たちが集まったバーベキュー大会のときには、「上等な美味しいお肉が手に入るみたい。来る?」とLINEで自慢とともに誘ってみたら、ほいほい現地の公園に現れた。
さすが肉好き、けれど恥ずかしがりやなので、ほとんど会話に加わらず、お肉ばかり食べていた。
最近はLINEを送っても返事がそっけない。そっけないのはいつものことだけれど、ますますそっけなくなってしまった。
こちらに思い当たる節はない。となると、晴輝側の心の問題だ。まあ、返事があるだけよしとするしかない。そういうお年頃ということもある。
晴輝はおとめ座らしい性格というのも、心配を増幅させる。
このあいだ、おとめ座の基本性格とやらを調べて気づいた。なるほどと思うところが、いくつかあった。
とにかく真面目で控えめ。そのくせ責任感が強く、学級委員長だって何度やったかわからない。
その責任感の強さゆえ、何か大きな悩みを抱えていないか、母としては心配なのである。
こんなふうに、仕事帰りに好きな音楽を流した車内で、考えるのは夫よりも晴輝のことが多い。
まったく、私もそこそこの心配性だ。おとめ座らしいといえるのだろうか。
帰宅するとすでに夫の和真が、どこぞの国の何とかいう煮込み料理をつくってくれていた。
「いつもありがとう、和真」
「いえいえ。だって今日はかなり特別だもの」
この人は毎日を特別な日ととらえて、楽しく生きている。そんなところも大好きだ。
スマートフォンが光っているのに気づいた。見ると、晴輝からのLINEだった。
――誕生日おめでとう、母さん。いつもありがとう。
それだけのメッセージが、とてつもなく嬉しい。
おとめ座の母と息子、どこか似ていて、けれど同じではない。
息子よ、何か悩みがあるなら、早く解決しますように。
――晴輝、ありがとう。これからも、よろしく!
そう返信した。
夫はワインを開けるのを待ってくれている。
これから何回、一緒に誕生日を迎えることができるだろう。
あと何回迎えられるとしても、迎えられないとしても、今日は今日だけの、特別な日――。
了
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