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1 妹のこと【おひつじ座】
歳の離れた妹がいる。十歳ちがう。
彼女は桜舞い散る三月の終わり、二十五歳になった。
春歌という名の彼女は、その名の通り歌が大好きで、「ミュージカルスターになるの!」と言って、ダンスも歌も、幼いころからがんばってきた。
リズム感があって運動神経も抜群、ダンスだけでも将来有望だと、兄であるオレは、贔屓目に見て思っていた。親バカならぬ、兄バカだ。
ところが無理をしたのか、足を痛めてしまった。
するとミュージカルはあっさりあきらめ、今度は「歌の道、一本にしぼるの! 路線変更、ジャズだよ、ジャズ!」と、基礎から習い直している。
落ち込むどころかアクティブに動きだすのが、春歌らしい。
もっとも、ダンスほど歌の才能はないようで、いつきっぱりと辞めてしまうか、兄としてはいささか心配でもある。
春歌から歌すらも取ってしまったら、それはもはや、大根おろしのない厚焼き玉子だ。そのままでもいいのだけれど、いまいち惜しい。
春歌はオレが店長をしている居酒屋でバイトをしている。個性あふれるバイト仲間たちと気が合うらしく、夏には若いヤツらで海に行ったと、笑顔で教えてくれた(オレのことも混ぜてほしかったけれど、おじさんはキモイと言われそうで、一緒に行きたいとは言いだせなかった)。
男友だちはいても、恋人はいない春歌は、「熱しやすく冷めやすいみたい」、そう、あっけらかんと言っていた。
オレは占いを信じないものの、春歌の属するおひつじ座が、火の星座というグループになることにも関係があるらしい。
その性格で歌うことがよくもつづくものだと、感心してしまう。やはり、いつの日か、きっぱりとあきらめてしまうのだろうか。
春歌の誕生日には、最近好きになったという赤ワインを送ってやった。
女友だちとふたりで飲みきってしまったと、あっけらかんと話していた。
好きな人と仲良く飲み明かした、なんていう甘い夜のアイテムになればと贈ったものの、そういう相手がまだいないことに、心のどこかでホッとしてもいる。
そんな春歌のはじめてのジャズライブに、今宵はバーを訪れた。春歌の歌に、ドラムとベースとピアノのトリオ編成だ。
もともと春歌はジャズも好きだったのだ。それはオレの影響で、そこのところは感謝してもらいたい。
春歌の二十五歳最初のライブが今、はじまる。
がんばれよ。何と言っても、俺がいちばんのファンなのだ。
春歌、がんばれ。
この先、どんな道を生きようと、にーちゃんはいつでも応援しているからな。
了
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